お役所の縦割り行政は、以前から言われているように身内の単なる縄張り争いが市民に迷惑をかけているだけである。その弊害が少なからず顕れて来た。ここへ来て財務省と文部科学省が初等教育の重要な点に目を向けず、来年度予算獲得でせめぎ合いを演じていることである。
財務省は小学校1学級を従来の40人制度に戻せと言うし、文科省は教育成果を踏まえ、これまで通り1学級35人制度堅持を主張している。この点に関しては文科省の方がよほど筋は通っていると思う。教育の根幹に触れるような問題を予算上厳しいからといってこれまで継承してきた方針をいとも簡単に変更するなら、元々財務省には予算を分配してやるとの権威主義ばかりが頭にあって、国家の財源を国民が公平に恩恵を受けられるよう効果的に活用する配慮も哲学も欠けていると考えざるを得ない。
ところが、今日の朝日朝刊一面を読むとその文科省にも問題が隠されているようだ。文科相の諮問機関である「中央教育審議会」が小中一貫教育についての議論を取りまとめたとある。それによれば、義務教育について①学年の区切りを自由に設定できる「小中一貫教育学校(仮称)」と、②別々の小学校と中学校が統一したカリキュラムで学ぶ「小中一貫型小・中学校(仮称)」を制度化するという。どうも拙速のきらいがある。
文科省は早速学校教育法などの改正案として、来年の通常国会に提出する。これが決定して実施されるなら戦後の義務教育制度が大きく転換するわけで、それを国民にまったく開示せずに関係者の話し合いだけで短兵急に変えるというのは、いくら何でも不誠実であり無責任ではないか。メディアもメディアである。こんな大事なことを伝える努力がほとんど見られないのは、これに加担していると言われても抗辯できまい。まったく政治家と文部官僚のやりたい放題ではないか。とても容認することはできない。
確かに現行の教育制度に問題がないわけではない。義務教育が戦後一貫して単線型のまま
70年もの間続けられてきたが、その是非を論ずる間もなく、一方的に変更しようというのはそこに恣意的な意図があるのではないかとつい勘ぐりたくもなる。
いままで文部省の海外教員視察団にお供して、外国、特に欧米の学校を幾度となく視察したが、日本と異なり彼の地の制度はほとんどが複線型だった。それは複線型にそれなりの良さがあったからだろう。それには視察した日本の先生方が面喰っていたくらいである。それを今エイヤっと一気に欧米型に変更しようとしているのだ。
これでは文部官僚も財務官僚と変わるところはない。議論なくして結論はないということをお役人はしっかり噛みしめて欲しいものだ。