昨日の朝日夕刊のトップページに、「常陸丸事件」に関して、常陸丸など3隻が沈没後121年を経過して漸くその潜水調査が行われたとの記事が掲載されていた。1904年日ロ戦争下にロシアのウラジオ艦隊により玄界灘を運行中の日本陸軍の運送船が撃沈されたのである。常陸丸事件が起きてから長い年月が経つが、今ではほとんど報道されることもなく、国民の間では忘れられている。恥ずかしながら私もこの事件を知らなかった。
この常陸丸事件は、3隻の船に2千5百名もの兵士、関係者らが乗船していて約1千名は何とか救われたが、残り1千名を上回る尊い生命が失われた。気になったのは、軍隊がその後「戦陣訓」として「生きて虜囚の辱めを受けず」精神を教育し、国民が逃れられた死から逃れなかったことである。これが一部に誤解されて、「武士道と捕虜を意味する言葉は、常陸丸事件の結果、『捕虜許すまじ』とか、『自決肯定』に行き着き、捕虜観に間違いなく影響を与えた」と学者の間でも考えられている。はっきり言って「捕虜になるなら自決せよ」と言っているようである。
このところ高市首相が、台湾有事が日本の集団的自衛権を行使出来る「存立危機事態」になり得るとした発言について、中国がすぐさま日本政府に抗議した。これに対して、木原官房長官は台湾海峡の平和と安定が重要であり、「台湾を巡る問題が対話により平和的に解決されることを希望するというのがわが国の一貫した立場だ」と説明した。これに関連して、大阪の中国領事館領事が下品なコメントをSNSに発信してトラブルになっている。これに日本政府は、コメントの削除と表現が不適切として抗議し、コメントは削除された。ちょっとした発言や、触れられたくない部分について発言するだけでことは大げさに広がっていくものだ。下手をすると、いずれ取返しの付かない事態になりかねない。
その辺りは、高市首相にはよく分かっていないようだ。一般的に現代の国家首脳や政治家らには、本当の戦争の怖さというものがよく分かっていないものと思う。いつも机上の空論だけで戦争の恐怖なんて言葉を時折出しているが、それは銃弾が飛び交い、下手をすると被弾して命を失う危険な場にいない環境で、真に戦争とその怖さが分かっていないからである。その意味では、戦後生まれの議員が圧倒的に多くなった衆参両院議員は、ごくわずかの議員を除いては、防空壕に逃げ込んだ議員も数少ない。これが、無意識につい好戦的な発言を引き起こすひとつの原因にもなっている。
今の政治家には戦争に関して軽薄な発言が多すぎる。それは、取りも直さず戦争を臨場感で知らないからである。そのために現状では戦争がない日本にいる限り、戦死する危険がないと安心して戦争論はエスカレートばかりである。あまりにも軽薄である。それ故、前記のように中国、台湾問題に軽率に首を突っ込んだ発言をしたり、机上の空論を述べるばかりである。そして相手国から非難される。いずれこのままだと本当の戦争に発展しかねないことになる。
戦争の怖さ、恐ろしさを知るために国会議員らは、定期的に自衛隊演習場で臨戦態勢の現場の中で訓練を受けるなどして、少しは戦争というものを臨場感で知ることを考えた方が良いかも知れない。