先日社会運動資料センター代表の渡部富哉氏からシンポジウムの案内状を送っていただいた。麻布台にある在日ロシア大使館で「第2次世界大戦におけるリヒャルト・ゾルゲの諜報活動の意味と役割」と題する興味深いシンポジウムが開催されるとの内容で、すぐ往復ハガキで申し込み今日午後出かけてみた。ロシア大使館内部へ入るのは初めてだったが、やはり大国意識の強いロシアらしく中々立派な建物で、門前は機動隊が警戒して物々しく、ハガキを見せて閉じられた正門脇の木戸口から入らせてもらった。シンポジウムは2階の大レセプションホールで行われた。参加者は個人的にゾルゲ事件について学んでいる人がほとんどのようだが、年配者が多い。それは、取りも直さずゾルゲ事件自体が現在の日本では関心が失われ、それに伴い若者からも興味が失われている表れではないかと思った。
ロシア大使館が会場を提供し、わざわざ本国の軍事史研究所から研究員V.Loto氏を招き、ミハイル・ベールイ駐日大使がスピーチされるほど、このシンポジウムに熱を入れているのは、祖国の英雄となったゾルゲの評価を訴えるという狙いの他に、5月7日に迎える露独戦争(大祖国戦争)勝利65周年記念日を祝うという意味もある。大使の話では、第2次大戦で2,700万人の犠牲者を生んだ旧ソ連では、ゾルゲの評価は低かった。それが1964年のフルシチョフ時代になって漸く再評価され、今では祖国救済の英雄とされている。
百名を超える参加者は、3人のパネリストが休憩15分を挟んで4時間半に亘って語る話を熱心に聴講した。
加藤哲郎・一橋大学名誉教授は、ゾルゲ事件を東京とモスクワ、上海からだけの視点ではなく、アメリカ、ベルリン、その他の土地における活動を合わせて精査する必要があると話された。
渡部氏は、独特の論調できつい指摘をされた。今までの尾崎秀実論、従来のゾルゲ論を見直すつもりでいて欲しいと言って、特に川合貞吉に関する人間性とか、虚偽の弁明について厳しく批判していた。昨年明治大学で行われたシンポジウムでも、川合貞吉に対する批判が繰り返された。「生きているユダ」を著した元日本ペンクラブ会長・尾崎秀樹は、尾崎秀実の実弟でもあるが、兄の死刑の理由を調べるために最初に接触したのは、その川合貞吉だった。秀樹は川合を同志とまで言っていたが、その川合がゾルゲ事件の真実を曲げて伝え、ウソで固まった文まで書いていたとは信じられない。私にとってはまだまだ謎だらけの事件である。
まあとにかくゾルゲ事件には、いろいろな見方や考え方がある。中には穿った意見もある。中国が公開していない情報が明らかになれば、ゾルゲ事件はまた新たな展開を見せるかもしれない。とてもすべてを研究しきれない。それにしても今日のシンポジウムは中々意欲的で、今どき中々珍しい試みだと感じた。