このところ外国人観光客の姿が随分目立つようになった。最近では外国人訪日観光客が新型コロナウィルス感染症の影響から回復し、その数も大幅に増えている。外国人観光客誘致策の第一弾として、観光庁がお先棒を担いだ「ビジットジャパン」プロジェクトが開始された2003年度には、訪日客は521万人だったが、その後着実に数字が伸び、10年後にはほぼ倍増の1,036万人となり、その後は倍々ゲームで増え、コロナ前の19年度には、3,188万人にまで増加した。その後コロナ期間中は100万人にも達しない年もあったが、23年度には、2,507万人にまで回復した。そして、2024年度には過去最多の3,687万人になった。今年度に入ってからも4月には対前年同月比28.5%増の391万人となり、5月には369万人となった。順調過ぎるほどの伸びである。この勢いに乗り旅行業収支は大幅な黒字になると思う。今ではインバウンド業は国家財政のひとつの大きな柱ともなりつつある。今後もコロナのような特殊なマイナス要因さえなければ、外国人訪日観光客は増え続けるでことあろう。
ただ、観光客が増えればすべて良しと言うわけには行かないのが難しいところである。観光客が一度に集中的に訪れる観光地では、それ自体は良いにしても中々対応が追い付かず、市民生活に影響が及ぶことになり、「オーバーツーリズム」と呼ばれるマイナス現象となって現れてきている。国内外の観光客の多い京都市などでは、市内バスが外国人観光客に占領される状態となり、一般市民が乗車出来ないような現象まで表れている。京都市では観光地周辺の混雑や交通渋滞など「オーバーツーリズム」が深刻化し、この対策として2018年にはホテル・旅館などの宿泊者から「宿泊税」の徴収を導入した。これを26年3月から思い切って大幅に引き上げる予定である。注目されるのは、1泊10万円以上の高級ホテル、旅館に宿泊する場合、従来の1千円の宿泊税を10倍の1万円に引き上げることである。これに似た制度が、国内では東京都を含め13自治体ですでに導入されている。
実はオーバーツーリズム現象によって、風光明媚な観光地へ多くの外国人がやって来て、中には観光地が質の悪い外国人が跋扈する無法地帯に様変わりしたような悪い例がある。ひとつの例が意外にもタイのリゾート地プーケット島である。私も何度か訪れたことがあるプーケット島は、首都バンコックの約850㎞南方にある素晴らしいリゾート海岸である。それが近年外国人の急増により住民の数に比較して多くの観光客が訪れる状態となり、犯罪も多発しているという。その観光客の中で最も多いのが、何と思いもよらずロシア人である。彼らはプーケットを訪れる外国人の内12%を占める。これは、ウクライナ侵攻後西欧諸国がロシアとの直行便を停止して、ロシア人に対して入国制限を厳しくしたせいである。しかし、タイではロシア人に対してノービザで90日間の滞在を認めたことによって、アエロフロートなどロシア機がプーケット空港に定期的に運行し、兵役逃れのロシア人や富裕層も続々と物価の安いタイにやってくるようになった。その結果、次第に副作用が目立ち始めた。違法ビジネス、大麻の普及、外国人の犯罪などで治安悪化が酷くなった。
この状態を日本人は他人事と見て「対岸の火事」視してはいけないと観光専門家は述べている。よほど注意しないとこの乱れて来たプーケットが、そのまま日本で二重写しにならないとも言い切れない。日本のインバウンド業好況の陰で、心しなければならないことである。