一昨日夜お隣韓国で国家を揺るがすような政治的大混乱があった。尹錫悦大統領が突然「非常戒厳」を宣布したのである。それにより軍の戒厳司令官が一切の政治活動を禁じる布告令を出した。尹政権は2022年に発足して以来、支持率は20%前後を推移し、今年4月の総選挙で与党「国民の力」は大敗を喫した。国会は「共に民主党」を主とする野党が過半数を占めたことにより、多数の政府官僚が弾劾訴追されるなどして行政が麻痺し、予算も政争に利用され通過しないと尹大統領は批判していた。
しかし、非常厳戒下だったにも拘わらず、国会は昨日未明に採決に参加した190人全員が賛成して「非常戒厳」解除要求決議案を緊急可決した。これを受け、尹大統領は止むを得ず宣布から6時間後に「非常戒厳」解除を宣言した。このドタバタに対して与党「国民の力」内でも批判が出ている。韓国メディアでも、何の利点があるのか、韓国史上最も不可解な出来事だとの声が出ている。野党は、「非常戒厳」を違法、違憲であり、内乱行為として完璧な弾劾事由に当たるとして、尹大統領の辞任を要求し、辞任しなければ弾劾手続きに入るとの批判的な声が高まっている。1980年に起きた光州事件に引き続き、1987年の民主化以降44年ぶりの戒厳令発令である。
その後今朝1時前に尹大統領の弾劾を求める議案が国会に報告され、明日にも採決が行われることになりそうである。採決で可決されるには国会議員の2/3以上の賛成が必要であり、現状では与党内から8名以上の賛成者が出れば、大統領の弾劾が決まる。
韓国国内では尹大統領の支持率は依然として低く、この事態の動きに対して与党内でも批判が出ており、軍を総括する金龍顕・国防相は「非常戒厳に関連して任務を遂行したすべての将兵は、私の指示に従ったものであり、すべての責任は私にある」として、自身辞意を表明した。すでに最大野党「共に民主党」は、尹大統領に違法な内乱罪に当たるとして強く辞任を要求した。これから一両日の間に大きな動きがあることだろう。懸念されるのは、こうした韓国内の政治的対立と混乱が、北朝鮮に利用され周辺海域などで治安が悪化することである。
同じような国会の激変が昨日フランスにも見られた。フランス議会は、内閣不信任案の採決を行い、574人の議員の内、331人が賛成票を投じ可決された。これによりバルニエ首相はマクロン大統領に辞表を提出し、内閣が総辞職することになった。第5共和制のド・ゴール大統領時代以前に遡り、実に62年ぶりの稀有な政治的現象である。近年フランス国内では極右勢力の「国民連合」が力を伸ばし、今や保守化の中心にいる。
韓国もフランスも政治が綱渡りをしている。尹大統領は、どちらかと言えば親日的で、それまでの韓国首脳がやや反日的な態度だったのに対して、日本への対応は常識的で対日強硬論をぶつことはなかった。今隠れたり、現れたりしている戦前の日韓関係の恥部を、尹大統領が辞任するようなことがあれば、再び問題となり、これからの日韓関係に多くの影響が現れることだろう。
宮沢賢治の「雨ニモマケズ~」を想い出していると、「東ニ病気ノ子供アレバ 行ッテ看病シテヤリ 西ニ疲レタ母アレバ 行ッテソノ稲ノ束ヲ負イ~」とあるが、韓国が病気の子に、フランスが病気の母に思えてくる。