もういい加減にしてくれというのが、トランプ大統領に対する強い不満である。今春以来ハーバード大に対して補助金の支払いを拒否するなど、学問の自由に踏み込んで大学にお仕置きをしていた。しかし、その後ハーバード大とは関係を修復しつつあった。そこへ30日政権は大学がユダヤ系の学生や、教職員に対するハラスメントに対応せず、公民権法に違反したとの調査結果をまとめ、大学がこれを是正しない場合は政府から大学への補助金をすべて停止するとまた嫌がらせの通告をした。どうも心変わりの激しい大統領だが、事態の捉え方も表面的な言葉だけですべてを判断する浅薄さがある。
核開発問題を抱えてイランを抑え込みたいトランプ氏は、イスラエルを利用してイラン核施設を攻撃し、イランに有無を言わせず停戦へ追い込み、戦争終戦を主導したのは、自分だと世界中に売り込んでいる始末である。
そしてその悪癖は、対日貿易交渉でも表れた。25%という高額関税を唐突に課して、日本を苦悩させているが、日本も大きな経済的影響を受けるだけに、粘り強く交渉している最中に、昨日一方的に「日本は30%か35%の関税、もしくはわれわれが決定する関税を支払うことになる」と対日関税の引き上げを仄めかした。対日交渉が思い通りに進まないのに苛立ったのである。現在日本は一律10%の関税を課されていて、措置が一時停止されている相互関税の引き上げを含めて関税率は24%となっているが、これさえ大きく上回る水準であり、日本との間で進められている交渉内容がいたくお気に召さぬようだ。
現在日米貿易は、1979年以来46年連続してアメリカが赤字である。アメリカが対日貿易上問題視しているのは「自動車」と「米」である。トランプ大統領は、1980年代から圧倒されている日本の自動車産業を敵対視する発言を繰り返している。彼の対応と発言の稚拙さは、ひとつには、これらの問題点をその都度、ひとつずつ徐々に話し合って解決するという当たり前の地道な手段を取らず、いきなり、しかも強引に上から目線で自己流を押し付けることである。もうひとつの問題は、アメリカの自動車が日本市場で販売が伸びない原因は、日本のマーケットに合致する対策を取らないからである。例えば、アメ車には、日本の道交法で決められた、全シートに安全シートを取り付ける義務があるが、アメ車には運転席にしか取り付けられていないことと、テールランプに白色が設置されておらず、これでは後続車が追突しかねない。これらを承知のうえであろうが、日本のマーケットに合わせようとしないアメリカ自動車産業に大きな欠陥があるといえよう。他にも修正点があると思うが、現状のままでは、トランプ氏の一方的な要求でアメ車が日本で売れるわけがない。これでは、アメリカの自動車産業が永久に日本市場で販売数を伸ばせないということである。
他にもトランプ氏は、「アメリカ・ファースト」を言い触らし、アメリカ流儀押し付け外交を実践している。国防費の対GNP比を5%にするよう北大西洋条約機構(NATO)各国に要望し、各国はトランプ忖度のために渋々受け入れた。しかし、日本に対しても現状1.8%を目標に近づけるよう要求し、そのうえ、日本政府に、対して駐日米軍経費負担の増額を要求している。
誤解を避ける意味でも、言っておきたいことがある。国防費、防衛費支出は日本では憲法で軍隊を持つことを禁じている点から違法である。しかもその日本憲法はアメリカ政府が主導して制定した。もう一点は、米軍駐留費用の負担は、米軍が戦後日本を占領し、その状態が引き継がれている。占領軍の必要経費を何故被占領国が支払わなければならないのか、この辺り日米両政府は口をつぐんで語らないが、奥歯に物が挟まったような会話が多いのは、その辺りの真意をお互いに誤解しているからである。
ある雑誌に「トランプよ 驕るなかれ!」というトランプ大統領を皮肉り批判、非難する言葉があった。「尊大、傲慢、居丈高、驕慢、横柄、権高、高飛車、自分勝手、傍若無人、傲岸不遜と思いつく限り並べてみても、まだ言い足りないトランプという妖怪に、世界が引っ掻きまわされている」。正にその通りである。困ったものである。