今朝の日経紙読書欄の「読書人の部屋」で青柳正規・文化庁長官がインタビューに応じている。私のノン・フィクションに推薦文をお願いした前文化庁長官・近藤誠一氏の後任の方でもある。今年69歳の青柳氏は元々古代ローマ史の専門家で、これまでも国立西洋美術館館長としてテレビを通して度々お目にかかっている。
その青柳長官のインタビュー記事の中で、興味を惹かれたのは、座右の書として中島敦の小説「李陵」を挙げていることである。高校時代に漢文の先生に薦められ心酔して以来ローマ美術史の研究生活に入っても影響を受け続けたという。漢語の良さを生かしながら、ぎりぎりまで言葉が削られている、圧倒的な文章の端正さに引かれ、全文を書き写したというから確かに相当刺激を受けたようだ。
恥ずかしながら私が昨年同書を読んだのは、ノン・フィクションを書いていて、太平洋戦争勃発時にパラオの南洋政庁に勤務していた頃の体験記「南洋通信」を読み、ぜひこの天才作家の書を他にも読んでみたいと思ったからである。確かに文章は34歳で夭折した人の書いたものとは思えないくらい、磨かれた流麗な書きっぷりに感銘を受けたものである。
ごく最近になって中島敦が一部で話題になり高校教師・佐野幹著「『山月記』はなぜ国民教材となったのか」が朝日紙の書評に取り上げられた。それほど眩しい脚光を浴びている。私も佐野書を始め、最近になって中島関係書を買い求め少しずつ読んでいるが、ノン・フィクションを書いていて資料として随分参考になった。
それにしても若くして亡くなったこの中島敦が、どうしてこれほどまでの名文を書くことができるのか感心するばかりである。精々これからも中島の作品を読んで文章力を磨きたいと思っている。
さて、年始に当り国際政治について多くの論者がメディアで卓見を披瀝している。
その中で目に留まったのは、1976年にソ連の崩壊を予言した、フランスの歴史人口学者エマニュエル・トッド氏が「2014年、世界秩序の行方は」と題して今朝の日経紙に開陳した持論である。その中で中国の影響力について、影響力が増すとは思わないと語っていることが意外である。その根拠は中国の人口低下のスピードが早過ぎることだという。更に人口学者で中国の輝かしい未来を信じる人はいないとまで断言している。一人っ子政策の転換も手遅れと指摘し、あまりにも多い人口のせいで、移民で人口構成の不均衡を調整することは無理と断罪している。また、中国は国内の不満を鎮めるために外との摩擦を使っている。共産主義の崩壊も進んでいる。日本とアメリカが緊密に協力すれば問題はない。中国の軍事力を恐れるのはばかげているとまで述べている。危惧されるのは昨日の本欄にも指摘したように、協力すべきアメリカとの外交関係が、安倍首相らの靖国参拝によってアメリカの日本に対する不信感を増幅させ思わしくないことである。
つまるところ、中国問題より日本国内問題が日米両国の間に不安を掻き立てているということだ。