東京・調布市仙川に「東京アートミュージアム」という新しいタイプの展示館がある。建築家安藤忠雄氏が設計・建築された建物である。明日から来月下旬までここで「東京陶芸三代展」が開かれるが、それに先立ち今夕オープニング・セレモニーが開かれた。三代とは、女流陶芸家辻輝子、その子息辻厚成、孫辻厚志の家族3人の作品が展示されたのだ。企画した一般財団法人プラザ財団理事長を務めている小中陽太郎さんから、オープニング・セレモニーへお誘いを受け、夕方会場へ出かけた。
ミュージアムで三代の作品をそれぞれ拝見したが、やはり一級品であることは分かる。ただ、陶芸というので、いわゆる粗削りな純日本的な陶器が主だと思っていたところ、ガラスの中に作品が収められていたり、光沢が見事に現れる油剤で磨き上げられていたり、ちょっと想像とは違っていた。セレモニーは建物屋外のピロティで立食で行われ、辻輝子さんはお見えにならなかったが、その他の関係者は揃っていた。
辻厚成、厚志父子が挨拶されたが、生存している三代の芸術家によるこのような企画はあまり例がないと言っておられた。
帰りはいつも通りペンの仲間ともども仙川駅周辺のインド料理店で二次会に立ち寄った。
さて、アマゾンからDVD「老人と海」を購入した。いうまでもなくノーベル賞作家アーネスト・ヘミングウェイ作品を映画化したもので、主演は名優スペンサー・トレーシーである。昨年キューバを訪れた時に、ヘミングウェイが入り浸ったバーや定宿へ冷やかし半分で寄ってみたが、作品の舞台であるコヒマル海岸には行くことが出来なかった。今日キューバ旅行を思い出しながらDVDをゆっくり楽しんだが、ハバナ沖合を漁船で年老いた老人がたったひとりで苦闘しながらカジキを捕獲するシーンが見どころだ。
実は「老人と海」は1952年に発行されたが、その数年後に辞書をひきながら唯一原書で読んだことのある、私にとっては古典のような短編である。老人を慕う少年が脇役として登場するが、主役はほとんど老人と捕獲されたカジキの格闘だけというやや抑揚のないストーリーであるが、カジキが運ばれる途中でサメに食いちぎられる様子など見応えは充分である。ヘミングウェイの人となりとその小説は、後年飛行機事故の後遺症により自殺のような不可解な形で世を去ったが、何か人を惹きつける魅力のある人物であり作品である。
大分昔のことになるが、マイアミから‘Seven Miles Bridge’を渡りながらアメリカ最南端のキー・ウェストを訪れたことがあるが、ここにもヘミングウェイの住まいがあり、遥かにハバナを望むことが出来た。やはりヘミングウェイもキー・ウェストだけでは飽き足らず、海の向こうのキューバへ居を移したのだろう。そこで彼は名作「老人と海」を見事に書き上げた。「老人と海」を味わい尽くそうと思うと、キー・ウェストとキューバを訪れてみないことには、感傷的な臨場感に欠け興味が乗って来ないのではないかと思う。DVDで観る老人の貧しい部屋の片隅に信奉するコブレ教会の写真が飾ってあったのが、目を惹いた。コブレ教会も昨年訪れたが、聖母寺として多くのキューバの人々の厚い信仰の対処となっている。寂しそうなあの主人公の老人まであの教会を信仰していたのかと思うと不思議な感じがする。
久しぶりに学生の頃を思い出しながら、名作にたっぷり浸かることが出来た。