3582.2017年3月4日(土) 2.26事件は年々忘却の彼方へ

 今年のサッカーJリーグ開幕日の翌2月26日は、横浜FCの開幕試合だったが、出場した三浦知良選手が50歳の誕生日を迎えて世界的にも珍しいリーグ最年長という話題が派手に取り上げられた一方で、81年前のこの日発生した近代日本史上唯一の衝撃的な軍部クーデタ―とされる2.26事件はほとんど話題にも挙がらなかった。メディアの関心は、今や歴史を左右しかねなかったほど重大なクーデター事件よりサッカーにあるということだろうか。

 その2.26事件については、当日の日経朝刊の「春秋」にちょっと紹介された程度である。どうしてこのように日本が軍国国家へ一気になだれこむきっかけとなった歴史上の大事件を、毎年メディアは取り上げようとしないのか、以前から不思議に思えて仕方がなかった。

 そんな中で、流石にNHKはメディアの先覚者らしくNHK特集「戒厳司令『交信を傍受せよ』2.26事件秘録」を放映した。それを録画しておき確定申告を終えた気楽さも手伝い、今日1時間のドキュメンタリーを鑑賞し、改めて考えさせられた。

 2.26事件に関心を抱くようになったのは、中学生時代に亡父から事件のあらましを度々聞かされていたことと、大分以前に松本清張著「昭和史発掘」第5~9巻を読んで2.26事件の詳細を知り、当時の時代性と青年将校らのストイックな思想に興味を抱いたことが影響している。特に日和見主義の将官クラスのリーダーに従っていたが、見事に裏切られクーデターの中心人物となった青年将校の安藤輝三大尉と栗原安秀中尉の真摯な人柄、揺るがぬ信念、そして彼らの行動力に惹かれたことが大きい。この報道番組は、1979年作品の再放送だったが、当時は観る機会がなかった。番組では私的で貴重な電話の会話が録音され、それが再生されたもので、生々しい臨場感も特に印象的だった。安藤輝三未亡人の寂しそうで無念そうな姿も心に残るものだった。

 2.26事件について軽々に評価することは出来ないが、間違いなく歴史のひとつの断面であり、多くの人々が翻弄されたことは事実である。首都東京を4日間に亘って占拠し、高橋是清蔵相、斎藤実内相ら時の要人を殺害した前代未聞の大事件だった。若手陸軍将校と1400余名の兵士たちにとっては、ただひたすら北一輝の思想を正しいものと信じ込んだ挙句に、皇道派と統制派の主導権争いに巻き込まれ「国賊」の汚名を被せられた悲劇だった。

 昨年末亡くなられたノートルダム清心学園理事長の渡辺和子さんは、教育総監だった父をこの事件により自宅の居間で殺害された。

 結局昭和天皇が青年将校らの訴えた昭和維新を拒絶したことによって、青年将校たちの志は国家反乱罪と決めつけられた事件だったが、その後の昭和史を左右した歴史上も大きな影響を与えた事件だった。そんな衝撃的な歴史上の事実からメディアが目を逸らし、社会へ正確に伝えようと努力をせずに放置しているのはジャーナリスト魂を失っているからではないかと情けなく思っている。来年こそは全新聞とも広く紹介し、テレビではドキュメンタリーはもちろん、骨のある関連ドラマを制作して欲しいものだ。

2017年3月4日 | カテゴリー : 未分類 | 投稿者 : mr-kondoh.com