昨日オバマ米大統領が最後の演説をした翌日の今朝未明、トランプ次期大統領が選挙で勝利を収めて以来初めて自らの所有するビル、トランプタワーで記者会見を行った。これまで公的に記者会見を行わず、一方的に140語以内のツィッターで言いたい放題のトランプ節だった。早速朝日夕刊「素粒子」に「協調と寛容の理想を語る米大統領から排他と対立を扇動する大統領へ。あられもない現実。その落差にめまいが。」と皮肉一杯に書かれている。
その記者会見の光景をテレビで観てもこれまでの大統領記者会見とは大分様子が違うと感じた。質問する記者に指を差してがなり立てる。最後は質問を打ち切り、一方的に会見を終わらせる。その中でアメリカの雇用創出を強調することは結構だが、相も変わらず①自国の利益を最優先し、②中国、日本、メキシコとの貿易赤字を問題視し、③大統領選のサイバー攻撃はロシアがやったと述べ、④メキシコとの国境に壁を作る、など予想されていたとは言え、自らの論理、立場からの一方的な発言に終始した。都合の悪い質問には、応えなかったり、気に入らない記者や「フェーク(虚偽)・ニュース」を流したとしてCNN記者に対しては質問しようとしても拒否したり指名しなかった。世界が注目し、300人を超えるジャーナリストが取材に来た舞台で、生来の我儘が出て一国の大統領としてあまりにも抱擁力のない態度では、この先メディアとの対応が出来るのだろうか心配になってきた。海外での記者会見では、もっと厳しい質問がぶつけられると予想されるが、カッとなって今日にように気に入らなければ会見打ち切りということにならなければ好いがと不安である。メディアにとっても頭の痛いところに違いない。
さて、噂では耳に挟んでいたが、こんな手荒なことをインドが現実にやってのけたのには驚いた。
まず、衝撃的なのは、インドでは所得税を払う人が人口のたった2%にしか過ぎないということである。それが国家財政の大きな赤字の原因となっている。庶民は課税対象から逃れやすい現金取引で商売をし、生活を営んでいる。そこに注目した政府は、昨年11月8日にモディ首相が商取引を把握し、所得税を収めさせる手段を実行に移すと公表した。まず、不正蓄財や偽造紙幣を根絶するために、最高額紙幣、及び高額紙幣を無効にすると一方的に宣言し、即座に翌9日からこれを実施したのである。全発行現金の約86%、国内総生産(GDP)の約12%を無効にしてしまったのだ。このため深刻な現金不足が起きた。インドの中小企業では現金が足りないため、給与が支払えない。卸売市場では、仲買人が現金不足で極端に買い控え状態になっているという。農村部では、都会向けの農産物が売れなくなり深刻な現金不足に陥っている。
政府は取引の実態を把握するために、支払いを透明性の高いカードや電子取引を勧めている。だが、現金廃止以後1ヶ月余りで零細企業の収益は50%も減り、35%の雇用が失われたとトランプ氏が聞けばびっくりするような沈滞ムードのようだ。
流石にノーベル経済学賞を受賞したインド人学者アマルティア・セン・ハーバード大教授が、キャッシュレス化が正しいとしても何年もかけて実施するべきで、やり方があまりにも拙速だと手厳しい。
それにしても現金総額の発行高は、そこに至るまでに諸々の原因や経緯があるわけでそう簡単に一刀両断に決められるものではない。失礼ながら今後のインド経済の成行をしばらく拝見させてもらいたいと思っているくらいである。