今日の駒沢大学マスコミ講座で須磨章講師が、10歳の時に「奇病の陰」という水俣病を告発したNHKドキュメンタリー番組を観て心を打たれ、それが後年NHKに入るきっかけになったと話された。そのビデオを教室で見せてもらった。昭和34年に製作されたもので、偶々現天皇陛下ご成婚の年である。確かに心に痛く響く内容である。その時代には、まだ国は水俣病が公害であると認定せず、病気の原因を巡って熊本大学医学部と新日本窒素肥料㈱(現チッソ)の間で激しい論争が戦わされていた。国が漸く水俣病を公害病と認めたのは、それから9年後のことである。4大公害病のひとつと言われた水俣病がわが国高度経済成長期最中に生まれ、経済発展の陰でマイナス面の現象を徹底的に調査するという考えが当時の厚生省にはなかった。結果的にこれが多くの犠牲者を生むことになり波紋を広げて大きな社会問題となって、対策は遅まきながら取られたが、国家的にも患者個人的にも後遺症となって今もその影響が燻り続けている。ご自身NHKディレクターを務めた須磨講師が薦める番組であるだけに、中々考えさせるドキュメンタリーである。
さて、日本が国際社会で評判を落とすような事象が起きつつある。かねてよりアフリカ象が密猟により激減し、このまま放置したら絶滅の恐れがあると危惧されている。そこで各国が手を結び密猟防止対策として国内市場を閉鎖することをこれまで話し合ってきたが、思うような結論が出なかった。
実は、昨日までヨハネスブルグ(南アフリカ)で開催されていたワシントン条約締約国会議で、各国に象牙の国内市場閉鎖を求める決議が承認された。ところが、日本から出席していた山本公一環境相が「日本は違法取引、密猟による市場ではない」と、閉鎖の対象外であるとの認識を示した。これが環境保護のNGOを中心に大きな批判を浴びることになった。深刻な密猟からアフリカ象を守るため、各国内の市場を閉鎖して需要を絶つべきとの機運は、欧米を始め、象牙を輸出したアフリカ諸国にも広がっている。自国だけの都合で各国が市場を閉鎖する中で日本だけがこのまま市場を維持して、世界の多くの人々が納得するだろうか。
山本環境相は8月の内閣改造で新たに大臣に就任したばかりで、大臣が述べた日本の考えは恐らく環境省の内向き役人が進言したものであろう。だが、それにしても世界の潮流に逆行し、世界中から非難されるようでは先進国の名が泣くのではないだろうか。ここは各国と歩調を合わせて、きっぱり市場を閉鎖して密猟、またアフリカ象絶滅の危機防止に各国と手を結ぶべきではないか。あまりにも利己的に走り過ぎる。国際取引禁止後に特例として2度も象牙を日本に輸出したボツワナの環境大臣ですら、国内市場閉鎖の意向を示した中国やアメリカに謝意を示したという。これでは日本はアフリカ象保護の見地からも中国にさえ置いて行かれ、益々世界の中で孤立化するばかりではないか。
日本国内でいかなる力に応えようとしたのか、わが環境省も少々身勝手過ぎやしないか。