145.2007年10月6日(土) 山口洋一・元ミャンマー大使は、何を主張したいのか?

 今週発売の「週刊新潮」(10月11日付)に、山口洋一・元ミャンマー大使が、「スー・チー女史が『希望の星』という『ミャンマー報道』は間違っている」と題する特別手記で持論を述べている。高校の2年先輩である外交官の、失礼ながら的外れの内容にいたく衝撃を受けた。山口氏には、昨年山口氏の同級生、西宮市在住の井上篤太郎氏のご実家でお話しを伺って、その時は珍しく骨太い外交官だと敬服していただけに、記事を読んで唖然とした。偉大な先輩のお説に反論することは潔しとはしないが、失礼を承知のうえで誤解と事実誤認だけは指摘しておきたい。

 山口氏は軍政の為政者を悪玉、スー・チー女史を善玉とする日本のマス・メディアを偏向報道と指摘し、植民地化とか独裁の歴史を有するビルマは、現在民主主義の準備期間にあり、国づくりは他国が介入すべきでなく、側面的な支援だけに留めるべきであると自説を披露し、スー・チー女史はアメリカと結託していて、ビルマ人にとっていまや「希望の星」ではないとまで切り捨てる。

 ビルマ軍事政権に関する記述も思い入れがあるようで、「軍政」と批判されるが、ポル・ポト政権下のカンボジアや、マルコス政権時のフィリッピンとは違うと言い切り、今度のデモでも10万人が参加したといわれているが、明らかに誇大な数字だと異議を唱えている。スー・チー女史の自宅軟禁説についても、単なる「軟禁」ではなく、外部に対する警護の側面もあると仰る。

 山口氏のお説は、どう考えても軍政側に立つ人のこじつけの論理としか思えない。タン・シュェ国家平和発展評議会議長ら軍政首脳陣が考えている「新憲法の基本原則」は、1)議会の1/4は軍人、2)元首は議会から選出される大統領、3)大統領は軍関係者で、外国の影響下にない人、4)主要閣僚は軍司令官が任命、等々で、これでは独裁国家体質丸出しで、明らかに対抗者であるアウン・サン・スー・チーさんを締め出す露骨な案である。これでも軍政は悪玉ではなく、スー・チーさんは善玉でもないと主張されるお考えなのか。

 しかも一国を代表する特命全権大使ともあろう人が、軍政のデモ鎮圧、違法者検挙について、「違法デモを行った者を逮捕するのは、法治国家としては当たり前」とまで言い切っている。違法デモというが、「公共の場所で5人以上の政治目的の集まりは禁止」や、「屋内における50名を超える政治集会は許可制」の無視を、大げさに違法と非難しているが、民主国家として当然容認される行為を違法ということの方が、むしろおかしいのではないか。こんな分りきったことを、当然のごとく述べる外交官としての見識を疑いたくなる。

 こんな穿った自己主張と論理で、はたして世界中の世論が納得するだろうか。ご自分は軍政側に立っているのではなく、軍政とスー・チーさんの中間の立場にいると述べている。しかし、これはもう完全にビルマ軍政側に取り込まれた人間の論理である。

 これ以上は、追求しようという気にもならないが、3年間も現地で大使を務めてきた人の、とても人を納得させるような話でもないし、成熟した論理とも思えない。

 ひとつ申し上げるなら、山口氏が得たニュースソースはほとんど、軍政内部か、その関係者からもたらされた「軍政の基本方針」ではないだろうか。とかく海外大使クラスの人たちの赴任地におけるコミュニケーションは、意外に限られていて、相手国のごく一部の政府関係者、及び他国の外交官であると言われ、積極的に相手国の一般市民と親しく交流し、社会の中から本音とか実情を探るという努力はあまりしていない。当然入手出来る情報も限られることは、最近でも外務省休職中の佐藤優氏が著書に書いている。

 今日午後、グッドタイミングというべきか、私を山口氏とつないでくれた井上さんが、前記週刊誌記事のコピーを郵送してくれた。井上先輩は山口さんの考えをどう思っているだろうか。

2007年10月6日 | カテゴリー : 未分類 | 投稿者 : mr-kondoh.com