キューバの革命指導者エルネスト・チェ・ゲバラに関するDVD2巻を先日キューバ旅行へ出かける前に観たが、その後ゲバラのゲリラ戦術をもっと深く知りたくなり、一昨日と今日それぞれ1巻ずつを改めて復習のつもりでじっくり鑑賞した。
1巻は「チェ 28歳の革命」で、もう1巻は「チェ 39歳別れの手紙」と題する作品で、いずれもゲバラの回想録に基づいて制作された2時間余のゲリラ活動を中心とする作品で、外国作品にしては珍しく恋愛場面が描かれておらず、息を潜めるような緊迫したシーンの連続で見応えのある佳作映画である。前編はゲバラがフィデル・カストロら同志とともにキューバ革命を成し遂げるまでの流れをゲバラの活動ぶりを通して描いている。後編では、ゲバラが手にした安定的な待遇や、地位を惜しげもなく捨て忽然とキューバを去り、その事情をカストロがゲバラからの手紙を読み上げることで、ゲバラを慕う国民の理解を得ようとすることから始まる第2の活動の場、ボリビアにおけるゲリラ活動を描いた。ゲバラはボリビア山中で難行しつつゲリラ戦士たちに革命の指導に当たった末に、農民に密告されてゲリラ活動340日目にユロ渓谷でボリビア政府軍に捕まり銃殺されて革命家としての生涯を終える。その山中のゲリラ活動をかなり克明に描いている。
キューバ旅行中に各地で国民のカストロ兄弟とゲバラに対する強い敬愛の情感を知った。彼らに関連する個人崇拝的な帽子やTシャツ、革命広場のビル壁画に描かれたゲバラの顔などは他の国ではあまりお目にかかることができないものだ。私自身も彼らのひたむきな革命達成の意思と私利私欲のないこと、そして国民生活の向上を願う国民を想う気持ちには感動させられた。なぜいくらでも恵まれた生活を送れるのに、敢えて自らの豊かな生活を捨ててまでして、これほど無私・無欲の境地になれるのか。この純真で他人のために尽くそうとの博愛的な気持ちは、一般的には独裁者には見られないものだ。革命家と称される毛沢東やレーニン、スターリンらには微塵も見られないほどの潔癖さである。
キューバ革命が成功したのは、一般的に1959年1月1日独裁者バティスタ大統領がトルヒーヨ大統領独裁下のドミニカ共和国に亡命した時とされている。当時は浪人中だったため、大学入試を前にそれほどキューバ革命に強い関心を抱くことはなかった。4月に大学生となり、翌年60年安保闘争に参加して62年10月大学4学年時にあの衝撃的なキューバ危機が起きた。この時はケネディ大統領がキューバへ入出国する外国籍船舶を止めさせるため海上封鎖という荒療治を行った。結果的にソ連のフルシチョフ首相がミサイルをキューバから撤去することを受け入れ、危機は回避された。当時ひとつ間違えれば第3次世界大戦勃発の危機に追い込まれかねなかった。そんな危惧を抱いた人も多かったようだ。何ともぞっとするような生々しい印象が忘れられない。
爾来キューバに強い関心はあったが、中々行ける機会はなかった。今回初めてその憧れのキューバを訪れ、表面的ではあるが、少しは臨場感を感じながらキューバを知ることができたことを有難いと思っている。つくづく訪れて良かったと思っている。アメリカによる経済封鎖の影響などでインフラなどはまだ充分整備されていないが、ゲバラが伝えた革命精神でひとつひとつ確実に理想へ向かって前進していることは見て取れる。義務教育制度の普及により読み書きができない人々も大分減り、医療も無料になった。市街地にはほとんどゴミが散乱されていない。所得格差も小さくなった。今やキューバは大いに魅力的な国となった。しばらくこの革命の地に関心を抱きつつマイペースで学んで行きたいと思っている。