沖縄・普天間米軍基地の辺野古移設を巡る辺野古沖埋め立て工事承認を取り消した翁長雄志・沖縄県知事を国が訴えた訴訟で、一昨日福岡高裁那覇支部は国の主張を認め、翁長知事が応じないのは違法であるとの判決を言い渡した。
今回裁判所が国の言い分を認めたため、沖縄県は取り消しを撤回して工事を承認せざるを得なくなった。このまま筋書通り行くと国は停止中の工事を再開し、いずれ辺野古沖を埋め立ててここに米軍基地を設営することになる。その結果として普天間基地は沖縄に返還されることになる。普天間基地撤去を主張していた沖縄県民としては、所期の目的が達成されたことになり、国はこれこそが唯一の解決方法であると考えていただけに、希望通りではないかというのが言い分であろう。
だが、果たしてそうだろうか。沖縄から米軍基地がなくなるわけではない。判決を聞いた翁長知事は唖然としたと言った。判決が国の言い分を鵜呑みにして司法が行政の立場に立ったのではないかとの声もある。国の言い分は一部正しい。だが、根本的に沖縄県民の感情を理解しているだろうか。これほど辺野古埋め立て工事に対して沖縄県民が反対するのは、沖縄から基地がいつまでもなくならないということと、いつまでも日本政府が沖縄県民の気持ちを汲み取ってくれず、いつも沖縄が犠牲にさせられ、日本政府から見捨てられたとの絶望感があるからである。ここに至るまでにどれほど沖縄県民は政府が進めようとしている沖縄対策が、県民目線ではなく、上から目線であることにうんざりしているのである。残念ながら政府がそのことに気が付いていないように見える。論より証拠に、閣僚の中に沖縄に対して膝突き合わせてトコトン話し合おうという気持ちがない大臣がいることである。例えば、「注文はたった一つ、早く片付けてほしいということに尽きる」と沖縄・北方担当鶴保庸介氏のように、沖縄県当局と真剣に話し合いしなければならない立場にいながら、他人事のように無神経に放言する愚かな大臣もいる。
判決後直ちに翁長知事は最高裁へ上告すると語った。法律論もさることながら、知事は国が沖縄にだけ、国の防衛について過重な責任と負担を押し付けて温かい支援の手を差し伸べてくれないことに対する不満が燻っている。
裁判所が政府の言い分に乗っかったように述べた「辺野古移転だけが唯一の解決策」が、却って事を解決しにくくし、その点を主張することによって他の解決策の議論を封印する結果となった。それでいながら政府が唯一の解決策と主張する根拠は何も明らかにされていない。どうして唯一の解決策と決めつける前に、いま話題の「専門家会議」で議論して、国民や沖縄県民に説明して徹底的に議論し合うということをやらなかったのか。そうすれば、より良いアイディアも提案されていたと思う。
一度は政府と沖縄県が話し合いしようという歩み寄りが途絶え、知事の「地方自治制度を軽視し、沖縄県民の踏みにじる、あまりにも国に偏った判断だ。裁判所が政府の追認機関であることが明らかになり、大変失望した」の言葉通り、再び両者の気持ちが離れていくことになった。
沖縄県民でない私たちもゆるがせにできない問題である。