俄かにチベットの雲行きが怪しくなってきた。一昨日鎌倉でチベットについて話す機会があったが、ちょうどその頃インド北部ダラムサラでチベット亡命政府を支持する反中国デモがあった。デモ騒ぎについては一切知らなかったので、その時はチベットへの旅行について思うままに感じたことを述べた。高山病について話す一方で、健康ならぜひ一度行ってみることを薦めると結んだ。
しかし、今日の報道をみると今度はラサ市内で大きな騒動になっている。せっかく青海チベット鉄道の開通により、チベット観光に光が見えてきた矢先だけに非常に残念である。すでにチベット地区への旅行を自粛するよう中国政府、チベット自治区、日本外務省から警告が発せられており、当分の間チベットへの旅行は難しくなるのではないかと気がかりである。
最初にインド国内でデモが起きたが、その日のうちにインド政府はデモ隊を排除した。インドは以前からチベット亡命政府の政治的活動を制限している。今度のデモ騒ぎに対しても冷静に対処して中国政府に微妙な気遣いをしている。
今朝の新聞は大々的にこの事件を取り上げている。先日訪れたジョカン(大昭寺)前広場に暴徒と化した群集によって、火をつけられ横倒しになった車の写真が載っている。新聞の見出しを見ると「チベット、デモ激化」「チベット、僧侶大規模でも」「チベット騒乱、中国『ダライ・ラマ派策動』」「チベット暴動『死者10人』」「騒乱拡大、五輪に暗雲」とチベットの先行きが懸念される記事ばかりである。
中国政府としては、一部のダライ・ラマ支持派の策略によるものだとアッピールすることによって、海外からの批判をかわしながら事件を早く押さえ込み収束させようと企てる魂胆がありありである。北京オリンピックを控え、中国としてはいま極力イメージダウンを避けたい。食物、大気汚染、と嫌なムードが流れているうえに、治安の不安が大きくなったら、オリンピック開催も危なくなってくる。中国の非民主化政策は、近年ではスーダンのダルフール紛争で実験済みである。過去の例を振り返ってみても、29年前のチベット紛争以来、中国はすべての紛争を力づくによって鎮圧してきた。チベット民族の権利、伝統、文化を重視することなく、ひとつの自治区として中央政府が力づくで統治することがどれほどチベット民族に幸福をもたらすのか。いつも外部の意見を斟酌しようとしない中国人だけに、チベット民族に対する中国政府の出方から目を放してはならない。
アメリカ、EU各国はすでに中国政府に対して、チベット人の人権に配慮するよう慎重なコメントを発表している。