360.2008年5月8日(木) 酒井啓子教授によるイラク講座

 多摩大学・現代世界解析講座第3回は、イラク問題に詳しい酒井啓子・東京外大大学院教授の「イラクを巡る国際情勢」と題する講義である。酒井講師は、アジア経済研究所主任研究員として、イラク戦争勃発の際、連日テレビに出演されていたので、いまも知名度は抜群だし、当時は歯切れの良い解説に随分理解を深めさせてもらったものである。

 80年代に3年間も研究者としてイラクに滞在し、戦争直後にも現地を訪れているので、現地情勢に詳しく、現地の人と同じ目線でイラク情勢を観察し、アメリカに対しても真っ当で、結構きつい意見を持っておられる。いま読んでいる岩波新書「イラク・戦争と占領」でも、戦争直前に戦争へ向かう段階的なイラク内外の動きについて詳細に分析している。

 今日の講義で、特に印象的だったのは、隣国同士ではあるがアラビア人のイラクと、ペルシャ人のイランの異質な点を挙げて、両国民の民族的な違い、イラク人のイラン人に対する考え、等について話された。イラク人は戦後アメリカが去った後に、国内でイラン人につけ込まれることを心配している。現在のマリキ政権の要人は、ほとんどイランとつながっている。彼らはフセイン政権下でイランへ亡命し、何十年間もイランで生活し、イランの協力も得た人々であり、イラン的思考に染まっている。イラク国民としては、イラク人とはいえ、そういう人たちに支配されることと、しばらくアメリカ軍が駐留することのプラス面を天秤にかけている。

 変わったところでは、フランス・サッカーのジダン選手と日本ハムのダルビッシュ投手のイスラム教徒論まで話され、中々面白かった。

 ささいなことだが、2点気になった。ひとつは、質問を受けるということを多摩大学学部長が開講前に突然言われたが、その時間はほんの10分。これだけの講義内容でたった10分とは常識的には考えられない。こんな僅かな時間では、最初から中身の濃い質疑は無理に決まっている。案の定質問者は1人だけだった。受講している飯田ゼミの遠藤靖子さんも、イラクの女性について質問したかったと言っていたくらいだ。

 もう1点は、酒井講師から事前に配布されたレジュメが、「11月7日、龍谷大学」とタイプされていた。いくらなんでも半年前他大学で行った講義のレジュメをそのまま配る、無神経はちょっと理解できない。この表示を削除するとか、タイプし直すとか、もう少し気を遣ってもらいたい。

 しかし、講義内容はさすがにイラク専門家で充分期待に応えるものだった。お陰であまり聞けない専門的な知識を直接仕入れさせてもらった。この後のセミナーにも期待が持続される。

2008年5月8日 | カテゴリー : 未分類 | 投稿者 : mr-kondoh.com