多摩大公開講座第7回は、明石康・元国連事務次長の「アジアにおける紛争解決と平和」だった。明石さんは、かつて東京都知事選に出て惨敗した。そのときの演説ぶりや、討論会の質疑応答などを見ていて、ちょっと失望したことがあった。事務次長としてカンボジア内戦に深く関与して終息させ、その当時明石さんの見事な外交交渉ぶりは世界から脚光を浴びた。しかし、その後関わったユーゴスラヴィア紛争では思い通りに事態は解決できず、一部では無能呼ばわりされたほどだった。都知事選挙運動中でも、はっきりした物言いはせず、応援していた人たちをがっかりさせた。そういう意味では、失礼ながらあまり大きな期待をしていなかった。
ところが、与えられた1時間半の間自分が関わった外交交渉から、最近の紛争事例、一般的に知られている国際紛争について、さすがと思える解説をしてくれた。やはり政治の分野では、持ち味が発揮できなかったのではないだろうか。今日の講義でも国際的外交官の面目躍如たる存在感を存分に発揮された。
ビルマと中国の最近の自然災害に対する諸外国からの援助に対する両国政府の対応にも触れた。中国には少しずつ開かれているという印象はあるが、ビルマはまったく取り付く島がないので、国連も困惑していると率直に述べられた。
そのほかに、印象に残っているのは、①アチェ、ネパール、ミンダナオのように、アジアの難問は少しずつ解決している。②外国との戦争より、内戦の方に被害が多い。例えば、スペイン内戦、カンボジアのポルポトによる犠牲者の数が、対外戦争を上回っている。③サイクロン被害に伴うミャンマー政府の援助を受け入れない頑なな対応から、国際的にもこのまま国民を見殺しにしてよいのかとの議論が起きている。つまり、国の援助が見込まれない時、あえて人道的介入をして「保護する責任」を果たすべきではないかとの世論も挙がっている。これに対しては、インド、中国を始めアジア、アフリカから反対の声が挙がっている。④日本の平和憲法維持のために、日本はその努力と対価を払っているか、と疑問を呈された。
その後2人の受講者から質問を受けた。丁寧に明石さんが応えていたとき、学生たちの私語があまりにも声高で煩くなり、聞き取りにくくなった。真面目に応答されていた明石さんにも失礼であるし、前方の座席の一般人も迷惑そうな表情をしていた。
前2列目に座っていたご意見番の私も堪えていたが、ついに我慢できなくなり、年甲斐もなく学生席へ向け「ガクセイたち! うるせぇぞ!」と思わず怒鳴りつけてしまった。学生たちはしゅんとなって声が出なくなった。明石さんは一瞬当惑したようだったが、質問に答えて講義は終わった。明石さんにも申し訳なかったと思っている。周囲の受講者からはよく言ってくれましたと言われ、てれくさい気がした。しかし、先週寺島講師が散々煩いからと警告したにも関わらず、この騒がしさである。われわれには有益で、面白くて素晴らしい講座だと思っているが、これほど私語が止まないのは、学生たちにとって授業が退屈で苦痛なのではないだろうか。
そんな折りも折り秋田英澪子・知研事務局長、大分の永留浩さんとともに多摩大キャンパスを出て駐車場へ向かう途中で、一人の多摩大生に話しかけられた。Tくんと言い、この講座を社会人の方はどう思いますかと唐突に尋ねられた。私がうるさいと怒鳴った本人だと名乗ったところ、この講座は1年生には難しくて分からない。かなりの学生は講義が始まると居眠りしている。大学生になったばかりの1年生に授業として、レベルの高い講義を聞かせる目的は何でしょうと聞かれて反って面食らってしまった。私語は私語として、学生は学生なりに悩んでいるのだ。確かに高校を卒業したばかりでは、このレベルの内容はとても理解できそうもないと思う。公開講座はこれで素晴らしいが、せっかくの企画が意図を汲まれないのではもったいないと思う。高学年生ならともかく、確かにこのTくんの言うように、この講義内容は1年生には少々荷が重く難しいと思うので、大学もこの辺りのことを、次回には検討してみてはどうだろうか。