アメリカ球界で苦難の中を、改めて活躍の場を探っていた野茂英雄投手が先日引退を発表した。本人としては、39歳の年齢からやるべきことはすべてやったと納得したうえで、引退を決意したと見られていたがそうでもないらしい。本人としては、できれば更に可能性を探ってもう一花咲かせたいと考えていた。その辺りのことはよく分らないが、今年コロラド・ロッキーズ傘下のマイナーチームに採用され、一時はメジャーへ昇格したが、何度かKOされ、遂に戦力外通告を受け再昇格の可能性の少ないことと年齢を考慮して、不満足ながらも最後の断を下した。
率直に言ってこれまでの野茂投手の活躍には敬意を表したい。見方はいろいろあるだろうが、私が一番評価したいのは、2度のノーヒットノーラン達成、新人王獲得を含む投手としての赫々たる実績はもちろんだが、そのほかに野茂のパイオニア精神と「退路を断つ」潔さである。1995年メジャーに挑戦すると突然公表した時は、近鉄と契約でもめ、メジャーリーグがストライキ中で下手をするとメジャーへ行っても試合ができないという追い詰められた状況の中で、当時のマス・メディアも野茂の行動に不審の目を向けていた。しかも日米球界間には選手移籍契約もなく、野茂が帰国しても日本球界には復帰できない状態だった。明らかに「退路を断った」のである。その中を自力で壁を乗り越え、力を発揮してアメリカのファンに歓迎された。その後の日本人メジャーリーガーの誕生は、野茂の功績と言うこともできる。現在活躍中のメージャーリーガーはみな、野茂に対して感謝の言葉を述べている。
1996年6月にヘルシンキ滞在中に、野茂投手が完封勝利を挙げたことを写真入りで報じていた英字新聞を誇らしい気持ちで読んだことを懐かしく思い出す。
自分の腕に自信があるからこそ、思い切って飛び込んだ世界だったが、孤軍奮闘見事に力を発揮して見せた。それにしても今の時勢とは合わない一本気とか、潔さ、自分の力を信じる、と野茂の人生観と生きざまが爽やかに感じられる。潔さを欠く政治家や役人どもは、国民を騙したり、税金を無駄使いしたりせず、自力で勝負してみろと言いたい。