507.2008年10月2日(木) 山内昌之教授の中東論

 秋学期になって初めて多摩大学「現代世界解析講座」に出席した。今日の講師は山内昌之・東大大学院教授。前々から山内教授から中東に関する話を直接聴講できることを楽しみにしていた。テーマは「中東政治と国際関係の新しい構造-日本とイスラーム世界の構図」と題して専門家の立場から、アラブの現状とアラブ諸国に対する見方について一般的にはあまり知られていない実情とか、数値、アラブの実力、存在感、アメリカに対する影響力等について1時間半じっくり話された。

 山内教授は、「中東」について①日本が石油輸入の90%以上を依存している、②地勢的な重要性、③平和と対極にあるテロが恒常的に見られる地域、であることを認識することを示唆された。アメリカについては、戦費増加が社会問題を拡大させていると指摘、その一例として民間軍事会社(PNC)、数百社の売り上げが1,000億$を超えている。

 今民族が国家を形成し、同じようなやり方でことを成すという古典的なスタイルが姿を消しつつある。国家に対して、NGOとかテロリスト集団が影響力を発揮している。ルールを無視する集団の存在である。特に、NGO「グリーンピース」の反捕鯨集団の危険な不法行為に対して反捕鯨諸国が沈黙を守っているのは、それぞれの国内で反捕鯨団体の圧力があるからだ。その点で最近日本政府が日本の捕鯨調査船に対する狼藉行為を犯した「グリーンピース」の容疑者を刑事告発したのは、国家の側から見て国境を越えた「反極」現象への反撃であると、珍しく日本政府の対応を評価された。そして「極構造の多元化・重層化、あるいは無極化」について熱っぽく語られた。

 衝撃的な話は、膨大な米国債を購入している湾岸諸国、特に石油産油国(GCC)の外貨準備高が、06年末に7,170億$、08年末には1兆3,000億$に達し、資産総額は1京3,000兆円という途方もない額だという。山内教授はこの数値を財務省の役人に対する講演の中で話したところ、唸り声とうめき声が上がったという。しかし、いくら金があっても、それだけですべてがうまくいくかとなると、そうはいかない。中東諸国の悩みは食糧の輸入にあり、永続的な食糧の買い付けと確保に危機感を持っている。それに加えて失業、インフレ問題がある。大学を出ても思うように就職できない。失業率は20%にも上る。他人にサービスする職業は嫌われる。最初からマネージャーになりたいのだという。富の偏在も極端で、日本のような中流化や富の分散がない。日本には明治時代に、福沢諭吉、松方正義、渋沢栄一が商いのあり方と商業道徳をしっかり伝え、日本の経営者と労働者はその精神を粛々と受け入れ、今日まで継承していることが大きい。

 ざっと以上のような骨子だった。学生には、やや難しかったようで居眠りをしている学生が多かったが、一般受講者は真剣に聴いて中々緊張感もあり、アラブについて考えさせられる講義だった。

2008年10月2日 | カテゴリー : 未分類 | 投稿者 : mr-kondoh.com