先日来政府見解と異なる論文によって物議を醸し、その職を解かれた前防衛省航空幕僚長・田母神俊雄氏の参考人招致が参議院外交防衛委員会で行われた。久しぶりに出席した駒沢大学公開講座でも講師は田母神氏に対して批判的だった。この田母神氏は偏った持論に凝り固まり過ぎており、その持論をどうあっても取り消そうとの気持ちはないようだ。それが間違いであっても自分は正しいと信じていると述べる点を考えれば、元々こういう人を責任あるポストに就けたこと自体がエラーであったと看做されても止むを得ないのではないか。また、自衛隊幹部の中には田母神氏擁護論もかなりあるという。これもまた問題である。中には「歴史論争の一方の側の主張なのに、それをけしからんという方がおかしい。思想統制につながる」との声もあるやに聞く。個人の思想や主義より、国家の文民統制の方がより大事だということが軍人としてよく分っていない。結局は幹部教育が作戦とか、戦術などの事例研究がほとんどで史実を学ぶことが不十分であることを露呈した。
しかし、それにしても田母神氏の歴史観はおかしい。間違っている。「日本が相手国の了承を得ないで一方的に軍を進めたことはない」等の主張に対しては、現代史家の秦郁彦氏がこう切り替えしている。「思い違いだ。『満州事変はどうだったのか』と反論するだけで崩れてしまう論理だ」。更に「満州事変は日本の関東軍の謀略で鉄道を爆破し一方的に始めた戦争だ。謀議者から実行部隊の兵士まで、すでに関係者の多くの証言がある。当時の軍首脳も政府も追認し、予算も支出している。日中戦争も大東亜戦争も相手国の了承なしに始めた戦争だ」と強く田母神論を非難している。この一点だけ見ても田母神氏の考えがおかしいことは分る。
他の自衛隊幹部にもこのような考えに共鳴する者がいるとするなら、また似たような問題が起こる可能性は否定出来ない。このところ不祥事続きの自衛隊であるが、ここは世間から隔離された自衛隊だからこそ、腰を据えて国民と同じ教育を受けられるような手立てを考える必要があるのではないかと思う。