555.2008年11月19 日(水) 山崎さんと篠田監督、そして「海ゆかば」

 ベオグラード在住の山崎洋さんが、映画監督の篠田正浩氏と「ゾルゲ事件をめぐって」のテーマで対談する企画が織り込まれた「第2回武蔵天平の郷・信時潔コンサート’08」に出かけた。会場は西国分寺駅前の立地のよい「国分寺市立いずみホール」である。 

 ホールは市立で場所も便利だし、中々立派なものだ。セルビアから来日のチェリスト夫妻を交えたヴァイオリン、チェロ、ピアノの三重奏による国分寺所縁の信時潔の作品と、バッハ、ヘンデル、チャイコフスキーの作品を演奏してくれた。信時の「電車ごっこ」「海ゆかば」以外は知らない曲ばかりだったが、「海ゆかば」はチェロの重苦しい音色が胸にずっしりと沁み込み、感動した。仕事で戦没者の慰霊や遺骨収集事業に長らく関わっていたせいもあり、度々聞かされた「海ゆかば」はやはり他の曲とは違うおごそかな感情で受け入れてしまう。

 山崎さんと篠田氏の対談で新しい知識を得た。ひとつは、「海ゆかば」の作詩者はこれまで大伴家持と聞かされていたが、篠田氏の語るところによれば、聖武天皇が作った歌を大伴家持へ下賜したものだということ。もうひとつは、日本の天皇家は元来仏教徒であり、神道というのは明治維新後のことだということである。篠田監督は、その根拠のひとつとして、東大寺は752年孝謙天皇によって建立された。また、京都三十三問堂は1164年後白河法皇によって建立された。いずれの天皇、法皇も仏教徒である。「スパイ・ゾルゲ」では篠田氏は監督でありながらチョイ役で出演もしている。山崎さんの祖父役である。そんな話を2人はゾルゲ事件を絡ませながら丁々発止と語り合った。篠田氏の話した言葉の中で、時代が尾崎秀実と山崎さんの父・ブランコ・ブケリッチのようなプロのスパイではない人たちを、スパイ事件へ巻き込んでしまった。しかし、尾崎にしても、ブケリッチにしても優秀な取材がプロのスパイである、ゾルゲやクラウゼンにヒントを与えたと仰った。これほどの情報収集力を示したふたりは、スパイとしてではなくジャーナリストとして優秀だったと締めくくられた。

 1931年生まれの篠田氏は、いろいろ苦労を知っているだけに、重い言葉を述べられた。広島、長崎の原爆投下の責任者である米軍空軍司令官に対して日本政府が最高の栄誉である勲章を贈ったのは完全に間違いであり、返してほしいと厳しい口調で述べた。最近の田母神発言に対しても極めて厳しく糾弾していた。

 終了後山崎さんには知り合いが多く寄っていたので、挨拶と近著をあげて、ゼミの後輩・堀勇弘くんと東横線都立大学駅前で遅い夕食をした。堀くんのご家族の系譜も日中戦争史とかなり強いつながりがあると感じた。新しい一面を後輩の話の中で知った。

2008年11月19日 | カテゴリー : 未分類 | 投稿者 : mr-kondoh.com