572.2008年12月6日(土) 「知の巨人」加藤周一氏逝く。

 2人の大きな人の死が悲しい。今朝作曲家の遠藤実さんが亡くなられた。数々の演歌を作曲して文化功労者にも選ばれた方である。口ひげがお愛嬌で優しく話す独特の語り口も人柄を表していた。「高校三年生」「くちなしの花」「北国の春」等々のヒット曲を後から後へ生み出した。家が貧しく高等小学校しか出ていないで、作曲はまったくの独学で自分で流しをやっていた経験と自分の感性だけで歌作りをやったというから凄い。どんな世界であろうとこういう苦労人がいるものだが、我慢を成長のバネにする点は尊敬してしまう。享年76歳だった。

 さて、いろんな意味で私自身大きな影響を受けた評論家のひとり、加藤周一氏が昨日亡くなった。学生時代に月刊誌「世界」を通してその気骨のある文体に触れて以来、そのリベラルで焦点が明確に定まった、卓越した論文を書かれる氏の姿をまぶしく見守っていた。確かベルリン自由大学教授をなさっていたころは、まだ東西冷戦の時代だったが、それだけに対立の接点に足場を置き、鋭い評論を発表したことに、私自身随分教えられたものである。私も参列した小田実氏の葬儀に加藤氏も参列され、小田さんは組織作りの名人であるというような弔辞を述べていたように記憶している。つい最近まで朝日新聞に毎月「夕陽妄語」というコラムを書いておられたので、お元気だと思っていたが今春「がん」が見つかって爾来療養されていたようだ。

 今朝の朝日に「日本の文化の特色として取り出されたのは、『今=いま』を重視する部分主義だった。それは決して悪いことばかりではない。柔軟な現実主義に通じ、明治の近代化や戦後の経済復興を生んだ。しかし、それは内向きな思想につながり世界全体を見渡すことが苦手で、例えば、無謀な戦争の推進力となった」と加藤氏の考えを的確に解説している。文章はやや難解ではあったが、全体に一本筋が通っており氏の文章を読み通すことがノルマを果たしたような気にさせてくれたものだ。

 加藤氏の思想には、根底に「自由」があった。それが氏に進歩的知識人の憧憬するマルクス主義と距離を置かせる、氏独自のリベラルな立場へのこだわりとなった。「知の巨人」と呼ばれるに値する実績を残された。不遜にも「知の狩人・知の旅人」を自称する私自身はとても加藤氏の足元にも及ばないが、せめてその考え方を積極的に取り入れ、一歩でも近づきたいと考えている。いずれ名著「羊の歌」を再び読み返してみたいと思う。享年89歳だった。心よりご冥福をお祈りしたい。   合掌 

2008年12月6日 | カテゴリー : 未分類 | 投稿者 : mr-kondoh.com