半年に1回行われる浅草上野フィルハーモニー管弦楽団第45回定期演奏会の日で、妻とともに浅草公会堂へ出かけた。勿論狙いはゼミの1年後輩の赤松晋さんのチェロ演奏である。いつも比較的馴染みのない交響曲が演奏される傾向にあるが、今日の演目は名の通ったメンデルスゾーン交響曲第4番イ長調作品90「イタリア」と、ヴェルディの歌劇「椿姫」ハイライトで、全般的に今までで一番良かった。特に「椿姫」の演出が良かった。浪曲師の玉川奈々福さんが語りを入れる珍しい趣向で、ヴィオレッタ、アルフレード、そしてジェルモン役歌い手の声量一杯の歌声が耳に心地よく、飯田ゼミの仲間はみな感銘を受けていたようだった。終ってから浅草寺へお参りして、いつも通り夫婦連れで「神谷バー」で会食となり久しぶりの交流をエンジョイした。
今朝成田空港にいる山崎洋さんから電話を受けた。これからベオグラードへ帰るという。昨日彼からベオグラード大学院生3名と一緒に翻訳したセルビア語版「KODIKI」を郵便で受け取ったところである。382頁からなる貴重な日本古典文学資料である。先日富士霊園へ行く道すがら「古事記」翻訳に至る苦労話をいろいろ聞いた。ハードカバーの立派な装丁を見て、これだけの書物をどこからの援助もなくパイオニア的に仕上げるのは、汗の結晶以外には考えられない。この翻訳書の出版については、当初外務省を通じて現地大使館から助成金が支出される筈だったが、釈然としない理由で助成金は出なくなったという。古事記クラスでもセルビアあたりではその価値を中々理解してくれる人が少ない。しかし、せっかくここまで完成にこぎつけた翻訳作業を中途半端に無にするのは忍びないと、自腹を切って出版にこぎつけたと言っていた。表紙は伝説により天照大神の絵を伊勢神宮で保存されている屏風絵からカメラに収めたという。ところが、この天照大神伝説は古事記ではなく日本書紀だということから、屏風絵の絵から金鵄を外し、それは裏表紙で復活させることにしたと苦心のアイディアを語ってくれた。
しかし、われわれも読んでいない古事記について、セルビア人の日本古典理解のために翻訳書を出されるとは、その努力に敬服するばかりである。山崎さんの健闘を祈るや切である。