昨年までハーバード大学教授だった政治学者サミュエル・ハンチントン教授が亡くなった。81歳だった。何と言っても同氏を世界的に有名にしたのは、1996年に喧々諤々の議論を巻き起こした著作「文明の衝突」の発表だろう。その当時「ニュース・ステーション」のキャスターだった久米宏が、番組の中で実物を手にとって、民族間の問題点と本音を抉って極めて面白いと異例の紹介までしたので、興味をそそられ読む気になった書である。実際読んでみて考えさせられ、特にオーストラリアが大洋州という地勢に満足できず、アジア圏に入るべきか悩んでいる心情とか、トルコがアジアとヨーロッパの間で心が揺れ、本音はヨーロッパでありながら、宗教的にヨーロッパたりえず、宙ぶらりんの状態にあるとの、ユニークな論旨と指摘が興味を惹いた。それでは私自身の感覚で探ってみようと思い立ってトルコへ出かけたのが1999年の夏だった。そのトルコでは思いもかけぬ大地震に遭い、地震を通して文化の違いをつくづく思い知らされたのだった。その旅行記については近著「停年オヤジの海外武者修行」にも書いた。その意味では異文化への興味を一層掻き立ててくれたハンチントン氏は、多種多様な文化へ気持ちを誘ってくれたという意味でも私にとっては恩人である。カーター大統領時代に政策スタッフとして、政界入りした多彩な経歴がありながら、その割に17冊と比較的著作は少ない。まだまだ彼なりの視点や見方を啓発して欲しかった。惜しい人を亡くした。
さて、現在の経済界は不況風邪をどう避けるかという一点から、いろいろ対策を考えているようだが、そのひとつが、企業同士の統合合併だろうか。三井住友、あいおい、ニッセイ同和の損保三社が統合検討を始めているようだ。これが実現したら業界トップになる。しかし、我々が社会人となった45年前には、三井、住友、あいおいの前身東京火災と千代田火災、日生、同和火災と言えばそれぞれが選りすぐられた一流会社だった。それが一心同体になるとは、思いがけない事態である。そうしなければこれからの乱世を生き抜いていけないということだろう。この大同団結によって、確かにムダは省かれ組織としては強力になるだろう。強いものは益々強くなり、弱いものは弱くなり淘汰されていく。その弱くなったものが今問題視されている非正規社員などではないだろうか。経済発展のためには、企業が強くなることが求められ、そうなればしわ寄せは最下層に寄せられる。やるせない現実だ。