不況のせいで学生の就職活動も例年になく厳しいようだ。今朝の日経就職特集を見ていると社会の動きや時代性を感じ取ることができる。半世紀近く前のわれわれの就職戦線はあまり深刻に悩むこともなく、4年生の夏になってから決めることが出来た。景気は悪くもなく周囲もあまりガツガツした感じはなかった。まあ好い時代だったと言えるかも知れない。
今年の就職戦線を見て気づくのは、人気企業ベスト10内に運輸観光業企業が4社もランクアップされていることである。こんなことはかつてなかった。このほかに銀行が4行で、後は我々の時代と同じ東京海上がトップを占めている。昨年は3位だったトヨタが最近のイメージダウンで46位にまで落ちている。
士・農・工・商・犬・猫・エージェントと自虐的に考えていた観光業が上位に上がってきたのには昔日の感があるが、それにはそれなりの理由があるようだ。近年学生の間には全般的にサービス業志向が強く就職希望者が多い。具体的には、仕事が面白そうというのが企業選びの重要視点になっている。観光業に永年携わってきた立場から率直に言うなら、「実情がまるで分っていない」。表面だけしか見ていない。楽しそうだとの気楽な視点からしか見ていない。どの仕事でもそうだが、内情はそうは簡単には分らないものだ。中でも旅行業なんか、内部の仕事がどれだけ苦労が多いかという点では、ほとんど学生には理解されていないのではないか。
例えば、「苦情処理」「相手のプライドを傷つけないで説得する」「長い時間お年寄りの話し相手になってあげる」等々にどれだけ対応する気持があるか。そのうえ忍耐、体力、清潔感、誠実さ、明るい性格等が求められる。特に、旅行は商品としての形が見えないだけに苦情に対して論理で対応することが難しい面がある。
果たして観光業志望の学生が苦情処理や、裏方的な仕事についてどんな考えを持っているのだろうか。それでもなお好きな仕事だからと初志貫徹することが出来るか、試練が待っている筈である。
それにしても自分自身の就職活動からもう半世紀近くなる。
今夜10時からNHKスペシャルで「菜の花畑の笑顔と青春」と題して、昨年アフガニスタンでタリバンに殺害されたNGOスタッフ、伊藤和也さんのドキュメントが放映され、深い感銘を受けた。最近刊の拙著「停年オヤジの海外武者修行」186頁に「2008年8月NGO活動中の若き日本人農業技術者が誘拐され殺害された」とのくだりで触れているが、それがまさにこの伊藤さんである。ここまでアフガニスタンに溶け込み、献身的な農業指導により地元民の強い信頼を勝ち得た姿を見せられ、こういう地道で有意義な活動をしている日本人には頭が下がる思いである。嫌なことの多い昨今、世間ではあまり騒がれないながらもひたすら利他的な活動に従事する人たちのドキュメントに爽やかさを感じる。