670.2009年3月14日(土) 加藤周一氏と中谷巌氏

 今朝NHKアーカイブスで「今をどう生きる‘知の巨人’加藤周一が残した言葉」を放映していた。加藤周一は昨年12月に亡くなって、その直後にいくつか追悼番組が放送され、その一部は観た。今日の番組を観て改めて加藤周一の終始一貫ぶれない姿勢に感銘を受けた。その中で加藤氏の強い信念を持った毅然とした言動が印象に残った。

 ひとつは、東大医局に勤めていた頃に、アメリカと戦争をやっても勝てる筈がないことは明らかだと確信した。にも拘わらず、そのアメリカと交戦して先行きが心配であると感じていた。戦後になって当時の学者が戦争情報を政府から知らされていなかったと他人事のように文句を言っていた。しかし、それは可笑しい。知りえた筈だというのが加藤氏の説明である。

 もうひとつは、戦時中知識人(河上徹太郎も入っていた)が雑誌で座談会を行った時の言い分と戦後の発言ががらっと替わったが、彼らはそれを恥ずかしいとも思っていないという主旨のことを述べている。

 加藤氏は多くの言葉を残しているが、それが悉く真理を突いている。信念が微動だにしないことである。6日の本稿に書き込んだように中谷巌氏とは大きな違いである。「中谷巌氏『転向』の波紋」との見出し記事が朝日朝刊の2/3頁を費やしている。氏の最近著「資本主義はなぜ自壊したのか」がベストセラーとなった話題性のゆえに取り上げられたのではなく、市場経済の行き過ぎ批判へ転向表明したことが賛否両論の波紋を広げたという点で記事になっているのである。一部に同情論もある。しかし、ほとんどが中谷氏の「転向」に厳しい意見をぶつけている。

 松原隆一郎・東大教授は、「経済情勢が変わるくらいで立場を簡単に変えるべきではない。・・・時流を意識したとしか思えない」と極めて批判的である。これに対して当人の中谷氏は、批判を受けることは百も承知で、「人間は成長とともに意見を変えるもの」と確信犯的にシャーシャーとしている。一橋大学教授として名を成し、多摩大学学長を経て、現在三菱UFJリサーチ&コンサルティング理事長として著名な氏が、世の批判を承知のうえで、敢えて「転向」を表明することに何ら良心のかけらもないのだろうか。

2009年3月14日 | カテゴリー : 未分類 | 投稿者 : mr-kondoh.com