昨年受講した岩波市民セミナーの講師だった、元共同通信副社長・原寿雄氏の岩波新書「ジャーリズムの可能性」の出版を祝う会のご案内をいただいたので、六本木の財団法人「国際文化会館」へ出かけた。ここは岩崎小弥太の邸宅だっただけに環境抜群の一等地にある。日本庭園も素晴らしく、桜が満開で実に素敵な一夜となった。
約120人が参加されたが、ほとんどがジャーナリストで直接知っているのは、残念ながら岩波市民セミナーを紹介してくれた共同通信出身で、駒沢大学の片山正彦講師だけだった。この新書の中で資料を提供してもらったと紹介されている元朝日の阿部和義氏に先日話をしたが姿は見えなかった。
普通のパーティとは異なり、最初に原氏の30分ばかりの講演があった。この新書は前半に、渡辺恒雄・読売グループ会長のマス・メディアに働く者が政治に介入し、自民・民主の大連合を画策することへの批判的論文と、大手メーカーのスポンサーとしての意図的CM抑制によりテレビ局への圧力を強めている事実への非難について書かれている。そのために読売を中心にかなり苦情や非難があったらしい。読売に対する非難を含んだコメントや巨人軍の効用、読売の大衆性等が原氏の口をついていくつか出てきた。
また、原氏は問題が生じたら、もっと議論を深めることが大切だと持論を述べられた。特に、漆間官房副長官のオフレコ発言が流れたいきさつについても解説され、下手をするとオフレコが情報操作に使われる恐れがあると言われた。サルコジ・フランス大統領がジャーナリズムへ国家の補助が必要だと発言したが、日本でもその必要性があるとも述べられた。この辺りの真意は、よく分らないが、原氏ははっきりと発言したところをみると、本気でそう思っているのではないか。しかし、私にはこれこそが情報操作や、報道管制に使われる恐れがあると感じられたのだが・・・。
引き続き何人かの著名人が挨拶されたが、中でも大宅映子、国弘正雄、本多勝一氏らには強い思い込みがある。かつて一世を風靡した冒険ジャーナリスト・本多勝一氏の見た目にげっそりした姿は昔の英姿を覚えている私には、些か衝撃だった。京都大学山岳部出身で、世界の僻地を歩き回っていた本多氏の姿からなぜか憔悴したような印象を受けた。あのベドウィン族との砂漠の旅、ニューギニア高地民族、中でもヤゲンブラさんとの交流、エスキモー(現イヌイット)とのセイウチ退治等々の描写は、聞きしに勝る面白さだった。それが挨拶もぼそぼそと原稿を読みながら話していた。話が上手でないとは本人が冒頭に断わったし、昨年佐高信氏も講義の中でそう言っていた。それにしても落差が大き過ぎる。国弘氏も元気がなく、終始椅子にかけっぱなしだった。ただ一人元気だったのは大宅氏で、子どものころから父親・大宅壮一氏から幾種類もの新聞を読まされ、それぞれの新聞の書き方が違うことを教わり、それが父親から教わった最大の財産であると話していたのが印象的だった。
いずれにしろ、原氏の良き人柄が偲ばれ、老若男女すべてのジャーナリストに尊敬され、敬愛されていると思わせるパーティだった。
さて、先月末イスラエルの総選挙が行われ、右派が圧勝した。これでパレスチナ政策強硬派を軸とする右派連立政権が誕生した。首相にはリクード党首のネタニヤフ氏が復活し、外相には連立を組んだ「イスラエル我が家」のリーベルマン党首が就任した。現在小康状態を保っているパレスチナ和平にこれで軋みが出るのではないかと懸念された矢先に、案の定リーベルマン外相はパレスチナ和平会議を欠席すると言い出した。この様子からすると今後パレスチナ和平は混沌としてくるのではないか。
総選挙以前には、アメリカがパレスチナ寄りの言動を起こすことはなかった。それが更に右傾化したわけだから、和平は遠のいたと言うべきだろう。唯一の和平への道は、ブッシュ政権からオバマ政権に替わったアメリカが、‘CHANGE’と「人権」を表に出してきたことである。オバマ政権がイスラエルに自制を促し、パレスチナ側の意向を少しでも汲み取ろうとの姿勢を見せれば、和平への道程はまったく可能性がないと諦めることもない。一にかかってアメリカの出方次第であろう。