709.2009年4月22日(水) マルクス経済学者の死

 一昨日大内力・東大名誉教授が亡くなられた。享年90歳だった。われわれが学生のころ、農業経済の第1人者としてマルクス経済学会における存在は際立っていた。大内先生の講義はどこでも聴講したことはなかったが、父親の大内兵衛・元法政大学長の公開講義は法政大学の大教室まで出かけて静かに聴いたことがある。

 その時伺った大内兵衛・元学長の話の中で今なお記憶に残っているのは、歌手坂本九が好きだということと、財政投融資は一般会計予算を本妻とすれば、めかけのようなものだと財投めかけ論をはっきり述べたことである。よくもまあ大学内の公開講座でそんな下品なことを言えたものだと思う。しかし、その後購入した大内兵衛著「実力は惜しみなく奪う」の中に同じことが書かれていた。大内先生は本気でそう思い、そのように外部に言うことによって思うところを世間に啓蒙していたのだと思う。その頃より財政投融資の評判は極めて悪かった。大内兵衛先生の謦咳に触れることはなかったが、マルクス経済学者として生涯筋の通った学究生活を送られた。

 偶然と言おうか、今夕の日経紙「あすへの話題」に経済学者の佐和隆光氏がエッセイを書いておられる。私が生まれた昭和13年に治安維持法違反で大内兵衛・東大教授と有沢広巳助教授は揃って検挙されたが、戦後2人のマルクス経済学者は、吉田茂内閣に入閣を要望されたという。それほど両先生の理論は高い評価を受けていた。

 夕刊の記事からショックを受けたのは、28年ぶりに日本が貿易赤字に陥ったことである。戦後貿易立国として経済成長、国家繁栄を享受してきたが、その大きな要因は貿易黒字だった。戦後一時的に貿易収支がマイナスになったことはあるが、百年に1度の経済不況に影響され貿易赤字になるとは、日本経済がかなり深部まで打ちのめされているということである。

 さて、これからどうすべきか。大内兵衛教授から現況に対するコメントをお聞きすることは出来なくなってしまったが、変質学者の中谷巌・三菱経済研究所理事長からご高説を伺いたいところである。

2009年4月22日 | カテゴリー : 未分類 | 投稿者 : mr-kondoh.com