17日に画家・安野光雅氏がNHK朝の番組で話していたことを今日の日経夕刊のエッセイに書いている。的を射た論旨に納得して、主旨を友人に書き送ったほど強く印象に残っている。
こういう内容である。「誰が言い出したのか『今回の不況は百年に1度の不況だ』と盛んに言われている。こういった無責任な発言に私たちは非常に弱い。脅かされるだけで、その言い分の根拠がただせないが、百年といわず、わずか六十年余りさかのぼっただけで、恐るべき敗戦の日がそこにあったではないか」。実際その通りでどうして百年不況説が通説として拡がっていったのか。更に安野氏はこうも続けている。「あの時代と、不況と言われている今の世の中とくらべてみるといい。不況だというのに、新聞や雑誌の広告は旅行案内でいっぱい。食料は巷に満ちあふれ、着飾った男女が街を闊歩し、六十年前は米軍の車だけだったのに、売れていないはずの車で道路は渋滞している。テレビは飽食の料理とお笑い番組のない火はない」とまったくご指摘の通りである。
今日発表された企業の08年度決算は軒並み赤字である。野村ホールディングス7,000億円、農林中金6,200億円、みずほFG5,800億円、中央三井800億円等々である。加えて昨日IMFが発表した今年度の成長率は、日本は先進諸国の中で最悪の-6.2%である。一方車販売が好調の中国は6.5%だと、多摩大学沈才彬(シン・サイヒン)教授が他の視点からの分析を併せて詳しく説明された。
今日の多摩大学・現代世界解析講座は、今最も中国経済に精通している沈教授が担当された。テーマは「今後の中国経済の行方」だった。沈教授は軸足を日本に置いているが、中国江蘇省生まれで、中国社会科学院博士課程を修了後日本の大学で研究員として、中国経済の研究に携わっていただけに、日本人学者には及びもつかない発想と視点から実態を分析される。
確かに日本人学者の視点とは異なる。例えば、中国経済のひとつの特徴として「『政変』には弱いが、外部危機には強い」と断言する。文化大革命の66年はGDP成長率-7.2%で、劉少奇国家主席が失脚した67年は-7.2%に、毛沢東が亡くなり4人組追放があった76年は-2.7%、華国峰主席失脚の81年は-5.2%と成長率が落ちている。それ故現政権交代が予定される2013年が要注意だと分析される。
それにしても中国経済の強さには驚くばかりである。世界の銀行ランキングでも1位から3位までが中国の銀行だそうである。その純利益計上額も中国銀行で、その額も桁外れである。外部危機に強いのも共産党一党支配の強みで対応が早いことだと言われた。ただし、問題がある。国民の間に溜った不満が一気に爆発する心配がある。そのひとつは都市と農村の格差問題であり、もうひとつは政府幹部の腐敗・汚職であると指摘された。いずれも日本では考えられないほど桁外れなのである。
日中関係は、70年代の「日中友好」から90年代の「日中協力」を経て、現在は「日中融合」の時代に入ったと結ばれた。 中国経済の驚嘆すべき底力について分かりやすく説明された。