746.2009 年5月29日(金) 改造社の円本と岩波文庫創刊

 今まで気にも留めなかった岩波文庫本の最終頁に書かれた「読書子に寄す」を改めて読んでみた。「岩波文庫発刊に際して」と断って岩波書店創立者・岩波茂雄が昭和2年7月に書いたものだ。一説には「人生論ノート」の三木清が書いたとされる。小さな文字で頁一杯に書かれていて読みにくい文は、文庫創立者の心意気や文庫創設の趣旨を書いたものだとばかり思っていたが、そればかりでなく文庫発刊のきっかけとなった円本を大いに皮肉った、いわゆる円本へのアンチテーゼだったのだ。

 円本とは大正15年に改造社より発刊された、1巻1円全巻一括予約制の「現代日本文学全集」全37巻のことである。当時の1円が現在の価格でいくらに該当するかは判然としないが、1巻の重みから推定して3千円近いものだろう。だとすると全巻で10万円ほどを支払わないと手に入らない。岩波はこれを皮肉っているのだ。

 「~近時大量生産予約出版の流行を見る。その広告宣伝の狂態はしばらくおくも、後代にのこすと誇称する全集がその編集に万全の用意をなしたるか。千古の典籍の翻訳企図に敬虔の態度を欠かざりしか。さらに分売を許さず読者を繋縛して数十冊を強うるがごとき、はたしてその楊言する学芸解放のゆえんなりや。吾人は天下の名士の声に和してこれを推挙するに躊躇するものである~」と遠慮がない。そして、岩波は「このときにあたって、岩波書店は自己の責務のいよいよ重大なるを思い、従来の方針の徹底を期するため、すでに十数年以前より志して来た計画を慎重審議この際断然実行することにした」と世に向かって岩波文庫の発刊を堂々宣言したのである。

 円本は洛陽の紙価を高めた。これによって文学愛好家は以前に比べて文学を読む機会がぐっと増えた。岩波はその先を読んでいたのである。2年後の昭和2年に岩波文庫が発刊されたが、爆発的なブームとなり、それは今も大きな市場を保っている。

 今日駒沢大学の講座で「本と出版の周辺」について柴野京子講師が新刊書の委託販売の解説の中で話してくれた。

 考古学ファンにとってまた新たな謎が浮かび上がった。国立歴史民俗博物館の調査によって奈良県桜井市の箸墓古墳がひょっとすると女王卑弥呼の墓ではないかと推測されている。箸墓から出土した土器が西暦240年~260年の「布留0式」と同じ時代のものと見られている。「魏志倭人伝」によれば卑弥呼の没年は時代的にも見合うという。これまで邪馬台国は北九州との説が有力であったが、今後これに一石を投じることになる。これで反って考古学ブームに改めて光が照らされるか。

2009年5月29日 | カテゴリー : 未分類 | 投稿者 : mr-kondoh.com