770.2009年6月22日(月) ロマンスカー車内での取材

 知研「出版プロジェクト」で私にとって4回目のインタビューは鉄道作家であり、推理作家でもある野村正樹さんだ。野村さんの提案により小田急ロマンスカーの展望車を部分的に借り切って、そこで取材するという珍しい舞台設定になった。出版社も興味を持ってくれ、予備席を含めて22席をリザーブして、小田急電鉄にも前以てこの企画について了解を求めた。

 16座席をフロントガラスに向かって「コ」の字型にアサインして応接間空間を作り、ゆったりした雰囲気の中で取材するということになった。流石に「鉄っちゃん・野村正樹」の面目躍如で心憎いばかりの心配りと演出である。予め質問をお送りしておいたが、特に「知の現場」という書名に関する「知」に拘った質疑となった。

 恐れ入ったのは、事前の質問に対して事前に野村さんから書類により一部回答をいただいたことである。少々難しいインタビューになるかなとの懸念は見事に吹っ飛んだ。野村さんにとっての「知的生産」とは、人間としての理想である「真善美の追求」「清く正しく美しく」のために4つの「識」、つまり「知識」「常識」「見識」「美意識」を磨き、これに触媒を加えて5つの「シン」の行動、端的に言って「発信」「受信」「共振」「疑心」「確信」することであると言われた。野村イズムの斬新な命題が浮かび上がったような気がする。

 ロマンスカー内での質疑は賑やかでやや落ち着きのないものだったが、中々珍しい体験で楽しいものだった。小田原駅では、知研会員の石川均さんがわざわざ年休を取ってワゴン・カーで出迎えてくれ、野村さんが連絡を取ってくれた二宮神社へ案内してくれた。野村さんは小田原で二宮尊徳博物館と報徳二宮神社見学を設営してくれていた。博物館で学芸員の説明を受けた後、草山昭・財団法人報徳福運社理事長から二宮尊徳の偉業と思想についてお話を伺った。草山理事長はかつて報徳二宮神社の宮司だった。昨年ブラジル移民100周年記念行事のためにブラジルへ行かれ、ブラジル日系人から尊徳について学びたいとの熱心な声に接した。帰国後尊徳の像を贈って普及にも力を注いでおられると仰っていた。「報徳精神」というのは、そもそも「神・儒・仏」が一体化したものだとの説明を受けたが、その考えは、神が50%、儒は25%、仏が残りの25%だと教えられた。神が半分も入っていることは中国辺りでは受け入れられないだろうと考えられるが、思想的に難しい中国でも近年二宮尊徳に関する関心が高まってきているということである。また国内でもトヨタ自動織機では、経営の参考のために、尊徳に対する教育を広めたいと言っていたそうだ。今や日本の教科書で尊徳について教えられることはなくなってしまったが、現在のような経済破綻、倫理観の失われた時代だからこそ、反ってその思想が強く求められているとのお説であった。まさにその通りだと思う。

 今日の取材は一風変わった取材になったが、二宮尊徳を見直す機会にもなった。いつまでも印象に残るものである。

2009年6月22日 | カテゴリー : 未分類 | 投稿者 : mr-kondoh.com