アメリカの歴代国防長官の中で最も在任期間の長かったロバート・マクナマラ氏が亡くなった。93年の生涯だった。ベトナム戦争中はほとんど毎日のようにその特徴のある顔つきを見せつけられ、良きにつけ悪しきにつけ、印象に残る人物だった。フォード自動車社長、国防長官、世界銀行総裁と絢爛たる履歴ぶりである。いずれもその在職中並外れた実績を上げた希代の怪物でもある。その中では何と言っても7年間も世界最強の軍事大国のトップに君臨していたことは特筆されるべきであろう。ニクソン訪中の仕掛け人であり、ベトナム戦争を拡大させた影武者でもあり、ベトナム戦争とは切っても切れないアメリカ政府の要人だった。近年になって核廃絶を訴え出した。晩年は世界銀行総裁としても実績を残した。貧困国向け融資額を在任中に12倍以上に増額した。信念と行動において、これほど振幅の激しい人も珍しい。日本人にとっても彼の存在感は飛び抜けていた。
ベトナム戦争中は共産国家の脅威を主張して、一国が共産主義化すれば周囲も同化するという有名な「ドミノ理論」を展開した。後年その認識は誤っていたと反省したが、メディアからは「陳腐な謝罪で無駄死にした兵たちの喪失を埋め合わせることは出来ない」と厳しく指弾されている。ベトナム戦争中のアメリカ兵死者の数は、58,000人に上る。
ベトナム戦争では、ジョンソン大統領と並んでアメリカ人としては最も名を上げた一人だろう。
さて、昨日中国のウルムチで発生した騒乱による死者は、その後も増えて156人に達し、負傷者は1,000人を超えた。「世界ウィグル会議」主席は、中国政府が言っている「事件は国外からの指揮と扇動があった」とする説を完全に否定している。アメリカ政府は多数の死傷者が出たことを深く憂慮していると述べたが、中国政府を非難するまでには至っていない。経済的に米中関係が抜き差しならぬ状態にある以上、中国政府のご機嫌を損ねることは極力避けたいところだろう。とは言えこのまま事態が沈静化すれば良いが、暴動化すればチベット事件の二の舞となる。
今日のニュースを見ていると興味深いことがあった。海外メディア団が中国政府によって取材を許されると、ウィグル人がメディアを目指して声高に騒ぎ立て率先して取材されようとする。すると少し遅れて市内の漢民族が手に凶器を持って街中をウィグル人が集まる場所へ向かった。一触即発と見た警官隊が中へ割って入るという危ない状態だった。
こうした中で米中首脳は、明日からイタリアのラクイラで開催される、G8サミットで顔合わせする。G8諸国が中国に対してどの程度踏み込んだ注意をするのか不明だが、大いに注目されるところである。そのラクイラも3ヶ月前に起きた地震により一部には壊滅的な状態に陥っている。テント暮らしの人も多い。未だに余震があるという。こんな落ち着かない状態で果たしてサミットも予定通り開催出来るのか気になる。ウルムチ・ラクイラ地震が襲って来なければ良いが・・・・。