直木賞作家でスポーツのノンフィクションものでも知られている海老沢泰久氏が十二指腸癌で亡くなった。59歳の若さだった。先日も女優の大原麗子さんが62歳で亡くなったばかりである。大原さんの場合はギラン・バレー症候群という聞きなれない難病で亡くなった。そして今日、とかくの行動癖があった俳優の山城新伍さんが肺炎のため町田市内の特別養護老人ホームで亡くなった。何と私と同じ70歳である。徐々に死というものが、身近なものになりつつある。
そんな死というものが、別の視点から切実に考えられるテレビ番組が終戦記念日前日の今日放映された。NHK「忘れないで私たちの戦争」と題する、戦争体験者から戦争を知らない若者が話を聞く(取材は事前録画)番組だった。SMAPの中居正広が、若者数十人を集め、詩人・金子兜太、女優・奈良岡朋子、作家・五木寛之各氏を招き、外地と内地で個人的に戦争と関わった体験談を聞きながら、戦争体験者への取材ビデオを観て番組を進めるという趣向だった。
ビデオで悲惨な場面を語る気の毒な運命に翻弄された人たちは、なんとか目の前に展開された状況とその時の気持ちを語らなければこの後も後悔することになると観念して、テレビに向かい語っているシーンの連続だった。ビデオで語るのは、ほとんどが外地出征者で90歳前後の元軍人さんである。この録画後に亡くなられた人もいた。この方は、部隊員200名の兵士のうち、生き残った兵士はたった4名だった。罪の意識に苛まれ、復員後自宅からまったく外出しないという。温泉に入ったり、遊んだりすることは苦しんで戦死した部下に対して申し訳ないとまで思いつめておられた。行軍中戦友が餓死するのを目の当たりにしたり、敵兵を刺し殺したり、傍で聞いている奥さんにとっても初めての話だったり、あまりにも生々しい話だった。
この戦争に意味がないという話の中で、戦争で亡くなった人の死も意味がないということに対して、自分は絶対そうは思いたくないと語った元兵士の直後に、五木氏がそれでも戦争による死は無駄であると明言したことは、人によっては異論があろう。しかし、戦場で仲間を失った元兵士の気持ちから言えば、気持ちはよく理解出来る。
しかし、五木氏が述べたように、時代の空気や感情に流されて戦争に借り出された兵士や、その犠牲になった家族にとっては、つまるところ国家戦略によって強引に徴用された戦地における望まざる死であり、それは無駄な死だという五木氏の主張もよく理解出来る。
考えさせられる番組だった。