831.2009年8月22日(土) 外務省のノー天気外交とパンナム機爆破事件の行方

 ビルマ国内に軍事政権の翼賛組織で「連邦団結発展協会(USDA)」といういわくつきの政治グループがある。2003年に民主化運動指導者アウン・サン・スー・チーさんを襲撃した一派である。そのUSDAは今では国際社会の鼻つまみものである。アメリカやEUでもその幹部を制裁対象として入国ビザ発給停止や、資産凍結の対象となっているくらい敬遠されている。

 それが何の意図があるのか分からないまま、日本の外務省はその有力幹部であるUSDA総書記ティ・ウー農業環境相を日本に招待したのである。世間知らずの小野啓一・外務省南東アジア1課長は「農業灌漑相として招待した。日本の農業を視察してもらうことは重要だ」と国際事情を考えない発言で、自分たちの対応は正当性があると言わんばかりで、反省の言葉もない。外務省の幹部がこれでは話にならない。外務省は国際社会のビルマに対する厳しい目をどれだけ分かっているのか、ビルマの実情や国際社会の反応を承知したうえで、このような外務省的唯我独尊ビルマ外交に乗り出したのか。

 ビルマの軍事政権がこれまで行ってきた非民主化政策や、国際世論を敵に回した行為、民主化運動を封殺した取り締まり、国連安保理非難決議、とりわけスー・チーさんを長年に亘って拘留、自宅軟禁してきた実態を考えれば、誰が考えても今回の外務省のビルマ閣僚招待には首を傾げるだろう。ビルマ事情通の秋元由紀氏も「スー・チーさんに有罪判決が出た直後に招待する日本政府の意図は理解に苦しむ」と述べている。

 一昨年5月の反政府デモの際、デモに参加した市民に暴行し、警察当局の逮捕に協力したとされるほどの軍政シンパサイザーの幹部を、よりによってこの微妙な時期に招待しなければならない事情とは何なのだろうか。敢えて考えるなら、ビルマに深入りしつつある中国を牽制するために、小さな楔を打ち込んでおくぐらいのことしか思い浮かばない。しかもティ・ウー大臣は悪名高い軍政の閣僚である。日本の農業を見てもらうなんて、本音を隠すための言い訳にしか過ぎないことは明らかである。そういう空気を読めず国の外交を壊すことを責務と考えているような外務省のノー天気外交官ぶりからは、これから日本とビルマの関係をどのような方向へ導いて行こうとしているのかまったく予測がつかない。

 現代は多重派外交時代と云われる中で、アメリカやEU諸国から非難を浴びるであろう日本の対ビルマ外交が、このまま突き進められるとはとても思えない。

 日本のマス・メディアももう少し詳しく調査して、報道すべきであると考える。それにしても、気になる世襲議員のひとり、中曽根外務相はこの件に関してどれほど関与しているのだろうか。

 昨日スコットランド司法当局は1988年のパンナム機爆破事故の犯人である、アルメグラヒ・リビア元情報機関員が、末期癌で余命3ヶ月であることを理由に釈放しリビアへ追放した。リビアへ帰ってきた犯人を首都トリポリで出迎えたのは、国家の最高指導者・カダフィ大佐と国民の熱狂的な歓迎ぶりだった。まるで英雄扱いである。スコットランドがいくら余命3ヶ月とは言え、何ゆえにこの時期に270人もの命を奪った残虐なテロ事件犯人をアメリカの非難が予想される中で、国外追放したのか。これでは事故による遺族の気持ちはたまったものではない。スコットランド司法当局に対して強い不満を漏らしている。

 この爆破事件は、この当時頻発した一連の反米テロのひとつで、私自身強い関心を持ち、拙著「停年オヤジの海外武者修行」の中でも、ニューヨーク9.11テロ事件の伏線のひとつとなったと書いた。それほど大きな影響を与えたテロだった。

 案の定、今日アメリカのオバマ大統領が「極めて不愉快だ」と怒りを露わにした。大統領報道官も「言語道断。愛する人を失った遺族への著しい侮辱だ」とアメリカ政府は、スコットランド、リビア両政府に対して抗議の気持ちを表した。

 昨年11月リビア政府はアメリカに対して事故の賠償金として、15億$(1480億円)を支払った。事故から20年経ち、アメリカとリビア両政府の間にも緊張緩和の空気が生まれ、リビア政府が絡んでいるとみられた疑念をリビアが認めた形でこの事件は収束するかに見えた。

 一方、AFP通信によると、リビアの最高指導者カダフィ大佐の次男セイフルイスラム氏が、この釈放はイギリスの石油権益と関連していると言い出した。もちろんイギリス政府は否定している。外野から見れば面白いかも知れないが、アメリカ、イギリス、スコットランド、リビアのメンツと利益が絡んだ奇妙な事件に発展しそうな雲行きになってきた。

2009年8月22日 | カテゴリー : 未分類 | 投稿者 : mr-kondoh.com