昨日のNHK「にっぽん紀行」という番組が「十二歳の成人」と称する興味深いテーマを取り上げ放映した。12歳の成人という言葉に、些かの疑問と興味を感じて観た。それによると富山県のある小学校では、6年生が全員霊峰・立山山頂を目指すことを長い間学校行事として続けてきたという。子どものころ体験した親も、良かったと評価していた。
しかし、はてと考えてしまった。2泊3日の体験学習として、小学6年生にここまで過酷で危険なエクスカーションを行う必要があるのだろうかと思った。大げさに言えば、生と死の瀬戸際にある学校行事といって差し支えないと思う。
今夏は北海道の大雪山を中心とする各地の山々で犠牲者を生んだ遭難事故が発生した。そのほとんどが旅行業者の主催するツアー登山による事故である。ゆとりのないスケジュールに、天候の激変、疲労、判断の間違い等がその原因として取り沙汰された。しかし、私の経験上言えば、登山では低山のハイキングならともかく一般的に高山に集団で登ること自体馴染まない。特に、知らない者同士が旅行業者の指定する集合場所で初めて顔合わせするような団体ツアーでは、大切なチームワークが芽生えようはずがない。
テレビ放映された富山県小学生の学習登山は、旅行業者が主催するようなツアー登山とは異なりあくまで学校が主催するものであるが、その反面別の視点から問題がある。まず、体力的にも未成熟な100名を超える小学生を団体で一度に3,000m超の高山へ連れて行く必要があるだろうか。一言で言えば無謀である。引率する教師らの気苦労も計り知れないものがある。もっと他に幼い6年生の体力に合った教育的な体験学習が考えられるのではないか。高原のキャンプでは駄目なのだろうか。これほど危険を冒してまで12歳という年齢を祝う必要があるだろうか。こんな危険な学校行事を私は聞いたことがない。私も大学生になってから何度かこの立山連峰の主峰雄山(標高3,003m)に登頂した経験があるが、幸い天候に恵まれた。しかし、3,000m級の高山にはそれなりに厳しい道のりがあった。景色は良かったし、天然記念物「雷鳥」を見ることも出来た。だが、そこには危険が背中合わせに隠されているのだ。高山で樹林はなく岩と石ばかりで遮るもののない山頂周辺は1度天候が狂えば、風雨から身を避ける場所がない。しかも痩せた尾根で、突風でも吹けば大人でも危険で、小さい子どもには必死になって岩にしがみついても吹き飛ばされる恐れがある。テレビ放映を観ていても、天候が3日間安定していたわけでもなく、これは引き返すべきだと思ったくらいである。幸いにして遭難事故とはならなかったが、その可能性は頗る高い。
こういう危険な行事を学校、教育委員会が黙認し、奨励するがごとき対応は児童の生命軽視と思われても仕方がない。彼らが誰もその危険性に気づかなかったり、疑問を唱えなかったとすれば、最早教育者としては失格だと思う。このように教育に名を借りた、その土地だけの特殊で危険極まりない行事は即刻中止すべきであると考えるが、目の前が見えなくなっている富山県教育委員会はどう考えるか。もし来年もこのままこの立山集団登山を強行するようなら、間違いなく遭難の危険性が秘められていることを警告しておきたい。