今日から駒沢大学マスコミ研究所公開講座の秋季学期が始まった。春季に「本と出版の周囲」を担当していた柴野京子講師が清田義昭講師に代わった。
清田講師は、「出版ニュース」の発行責任者で長年出版業界に関わっておられる。冒頭に琉球朝日放送が制作したビデオを見せてくれた。「メディアの敗北」というテーマで「沖縄返還をめぐる密約と12日間」という副題がついた50分ドキュメンタリーだった。昭和47年4月の外務省機密漏洩事件から始まる、3つの外務省密約事件を赤裸々に描いたもので、その当時いくつかのドキュメンタリー賞をいただいた作品である。
私自身この日米密約の発生当時から関心を持っていたが、ビデオを観て改めて日米間には間違いなく密約があったことを確信した。時恰も昨日岡田外相が密約について調査して11月末までに報告するよう厳命した。これまで歴代の首相を始め外相は、ことごとく密約を否定してきた。アメリカから機密文書が公表されたにも拘らず、密約は一切ないと断言してきた。
密約事件で最大の関心を呼んだのが、外務省公電漏洩事件であり、毎日新聞・西山太吉記者が入手した公電の写しは外務省女性職員と「情を通じて」得たものであり、国家機密法に違反するという、別件の罪で逮捕し、裁判でも国の勝訴となった。国家間の密約という重要な事件を、スキャンダルという1点で問題をすり替えたものとしてマスコミが政府の姿勢を糾弾した。しかし、それ以上政府を追い詰めることはできず、マスコミの敗北と言われた。
2点目は、沖縄米軍基地の移転に伴う費用 400万$を米軍が支払うとの協定にも拘らず、実際には米軍が支払ったように見せかけ、密約により日本が支払っていたというアピアランスというパフォーマンスがあった。
3点目は、非核3原則と云われる「作らず」「持たず」「持ち込ませず」を約束したにも拘わらず、条件付で核の持ち込みを容認していた。
これらの機密を追求した西山太吉記者は、日本政府から徹底的に攻撃され、政府の圧力を恐れた毎日新聞社も西山氏を冷遇して、西山氏は孤軍奮闘で政界、マス・メディアと戦い、最後には矢折れ弾尽きて表舞台から去った。
最近になって、当事者だった元外務省アメリカ局長の吉野文六氏や、元駐米大使の村田良平氏も密約があったことを認めている。アメリカからの公文書も公開された。ここまで証拠が揃っていながら、往生際の悪い自民党政府は、これまで「ないものはない」の一点張りだった。民主党は今改めて本事件に本腰を入れて追求する覚悟を決めた。
日米密約をなぜ今、調査するのか、と問われた岡田外相は「外交に対する国民の信頼を取り戻すためだ。外交は国民の理解と信頼のうえに成り立つ。密約問題がそれを損ねているのは間違いない」と応じた。どういう報告がなされるのか。興味のあるところだ。