昨日の朝日朝刊の「声」欄に、中国に7年間駐在されて帰国した人が、中学生の子どもの地理の教科書を見て中国の地名の表記について疑問を呈していた。
外国語の日本語表記は、現地語に則ることを原則とするにしても、よほど注意しないと実際の名称とはまったく別の言葉に変わってしまう恐れがある。文部科学省では、現在現地語表記を基準にして指導している。それがこの教科書のケースに当てはまるのかどうか。欧米の言葉の場合は日本語とは文字や発音がまったく異質だから、ある程度の発音のずれは止むを得ないと考えている。しかし、日本語と同じ漢字を使う中国語や朝鮮語の地名表記の場合は、よほどきめ細かく、あらゆる角度から検討しないとまったくかけ離れた言葉となって、相手国の人に理解されなかったり、誤解される場合が起こり得る。「声」で主張されていることは、件の教科書の中国地名に漢字を使うことなく、音読みのカタカナ表示をしている点で問題があり、誤解や間違いを生みやすいということを言っておられる。
例えば、英語の「ジェネバ」「ベニス」「ネープルス」「ミラン」「アレキサンダー」を、近年はそれぞれ原語に近い「ジュネーブ」「ヴェネチア」「ナポリ」「ミラノ」「アレクサンドロス」と呼ぶようになったが、それが本来の現地風の発音により近いと分かれば、それで良いと思う。
問題は、中国語や朝鮮語を日本語読みにした場合である。これまで毛沢東や、鄧小平を日本人が中国語で発音することはなく、日本語による音読みだった。地名でも北京は「ベイジン」と呼ばれることもあるが、普通は「ペキン」であり、西安や天津、広州などは漢字に表記される通りに音読みで発音している。それが「声」投書氏によれば、中学生の教科書には、漢字ではなく大連は「ターリェン」に、天津は「ティエンチン」、広州は「コワンチョウ」とカナで書かれているそうである。投書氏は「中国では今でも日本の地名や人名は漢字で表記、中国語の発音で読むことが主流である。日本も漢字で表記、日本語読みでよいのではないか」と素朴な疑問を投げかけている。その教科書は見ていないが、私も投書氏に同感である。
こういうように素直に考えれば良いことを、こねくり回すから分からなくなる。先日来商品の取扱説明書の分かりにくさについて、万歩計メーカーのオムロン社へ問い合わせたが、オムロン社からは一向に明確な回答が得られない。一旦売ってしまえば後は購入者が考えろと言わんばかりの傲慢な会社の消費者軽視の姿勢や、言葉をこねくり回す悪弊が簡単なことを複雑化させるとの考え方に通じるものだと思う。
中国の地名だけの問題ではなく、ことは自分たちさえ分かれば可とする姿勢こそ他人をボイコットする利己主義の表れではないか。