888.2009年10月18日(日) 没後20年、開高健作品について

 NHK・BSの堅実で長く続いている番組「週刊ブックレビュー」を時々気が向くと気楽に観ている。以前は読書家として知られる俳優・児玉清氏が進行役を務めていた番組だ。月刊「選択」10月号の「本に遭う」で朝日新聞の書評担当7年の河谷史夫氏が児玉氏をぼろくそにけなしている。やれ推薦書がつまらないだの、役者のくせに発音が不明確だと散々である。そのせいで児玉氏はこの番組を降りてしまったのだろうか。

 偶々今日放映されたのは、茅ヶ崎の開高記念館でトーク風に交わされた座談形式で、今年12月に没後20年を迎える「開高健」の作品を取り上げていた。昨年8月に「酒のペンクラブ」の会員とともに記念館を訪れたので、その時の雰囲気を思い出しながら話を聞いていた。

 中々面白かった。作家藤沢周氏が司会しながら、3人のゲストから開高作品の素晴らしいところと彼らが薦める一押しの作品を聞き出していた。

 作家角田光代さんの推奨作品は開高の3大「闇」作品のひとつで、朝日から派遣された従軍記者としての体験から描いた「ベトナム戦記」を母体に書かれた「輝ける闇」だった。写真家鬼海弘雄氏の一押し作品は「声の狩人」、ノンフィクション作家佐野真一氏は「人とこの世界」だった。3つの作品は、恥ずかしながらまだ読んでいないが、お三方の話を伺っていると読んでみたい気持ちにさせられる。

 開高はベ平連に深く関わり、私自身も開高と同じようにベトナム戦争中にベトナムを訪れたことがあり、かつて拙い作品を第1回開高健ノンフィクション賞に応募して最終審査まで残ったグラフィティもあるので、身近な人という印象を抱いている。

 1度も開高作品を読んだことのない人へのアドバイスとして、角田さんは「若い人は読みやすい本を読む傾向があるが、開高作品のような顎と頭を鍛える本を読まないと成長しない」と言っていた。至極ご尤もである。鬼海氏は「開高を読まないと人生で損をする」と読書をしない人にきつい1言を言い、佐野氏は「開高を読むと確実に自分が変わる。絶対1冊読めば1mmは変る」と強調していた。

 佐野氏が薦める「人とこの世界」(初版は河出書房新社刊行、現在ちくま文庫)は、開高にとって文士として大先輩にインタビューする形式をとっており、当時 30歳台だった開高も、大阪人特有の饒舌を抑えて、作家の心得をうまく聞き出している、読み逃せない好著だと太鼓判を押していた。何とか読んでみたいものだ。司会者・藤沢周氏は開高の遺作となった「珠玉」を薦めていた。

 番組では開高とベトナム戦でともに取材した朝日カメラマン・秋元啓一氏とベトナム戦争で従軍カメラマンとして活躍した石川文洋氏も登場して熾烈な戦線の光景、特に1965年2月14日に従軍部隊がベトコンの総攻撃を受けて、200人の米兵、ベトナム兵が襲われ生き残ったのは僅か17人で、秋元氏と開高はその奇跡的な生存者のひとりで、その後毎年2月14日には2人で酒を酌み交わしていた話などは、思い詰めさせられるものだった。

 角田光代さんが「開高の作品は全部読んでみたいが、まだ数冊読んでない作品がある。その理由は、読んでみたいがすべて読んでしまうともったいなくて、その後に開高を読みたくなった時に困る」と面白い言い方をしていた。

 開高は行動力があり、力強くて魅力的な作家である。改めて開高健に向かい合って開高作品をじっくり読んでみたいと思った次第である。

2009年10月18日 | カテゴリー : 未分類 | 投稿者 : mr-kondoh.com