一昨日ベルリン国際映画祭で寺島しのぶが女優主演賞を贈られた。若松孝二監督作品「キャタピラー」で日中戦争中に手足を失った軍人の妻を熱演した演技が、外国人記者から高く評価された模様だ。若松監督作品としては、昨年3月に映画祭を開催中の所沢まで出向いて「実録・連合赤軍 あさま山荘への道程」を観たが、その時監督と60年安保の話をしたことを思い出す。あさま山荘事件も今から38年前のちょうど今頃、雪の中で起きた凶悪事件だった。
あさま山荘事件を取り扱った映画作品としては、他に2002年に原田真人監督が制作した「突入せよ!あさま山荘事件」があり、シンポジウムに出席した若松監督は、原田作品は権力サイドから制作されたもので、赤軍派の行動が何も描かれていないと語っていた。この事件の主役は赤軍派であり、彼らについて一切描かれていないのは不自然だし、真実ではない。自分は反権力の立場から描きたいと思っていたと話していた。
赤軍派内の抗争、リンチ、殺人、挙句の果てに山荘侵入人質事件となって暴発した。原田作品の5年後にその凄惨な過程を赤軍派側から描いたのが昨年観た若松作品だった。機会があれば、原田作品も観て2つの作品を比べてみたいと考えていた矢先に、タイミングよく昨晩原田作品がテレビ放映された。
先日全共闘運動を取り上げたミュージカルを観たばかりで、何かもやもやと60年安保や全共闘時代の学生運動のイメージが駆け巡っている。
原田作品は確かに若松監督が指摘していたように、権力側からのアングルで撮ったものである。まったく赤軍派内部の様子は映していない。確かにこれでは、社会派の若松監督ならずとも、消化不良を起こしそうだ。警察庁、長野県警、現場の警察車両内など、ほとんど警察サイドの物語に終始している。その点から言えば、作品としての質、描き方、アプローチの仕方等、どれをとっても若松作品の「あさま山荘」に軍配を上げる。
実は、この原田作品がテレビ放映されたのは、数日前に亡くなった俳優・藤田まことさんの追悼番組としてである。藤田まことは、実在の人物、後藤田正晴・警察庁長官役で出演している。
回りくどくなってしまったが、寺島しのぶの「銀熊賞」受賞は、日本人として田中絹代以来35年ぶり3人目(最初は「日本こんちゅう記」の左幸子)だそうである。父親の尾上菊五郎、母親の富司純子も大喜びであるが、彼女の才能を見事に引き出した若松孝二監督はやはり非凡な人である。