1029.2010年3月8日(月) 加藤周一先生が語る「ドキュメンタリー映画」

 ロサンゼルスで今年の映画アカデミー賞授賞式が行われた今日、それにあやかったわけではないが、久しぶりに映画鑑賞に出かけた。

 一昨年12月に亡くなられた加藤周一先生が語りかける映画「しかし それだけではない。」を渋谷で上映していると新聞広告で知ったので、玉川税務署へ納税申告をした後渋谷へ向かった。道玄坂界隈で立地の分かりにくい「シネマ・アンジェリカ」を交番で尋ね、何とか探し当てた。副題に「加藤周一・幽霊と語る」とふざけたタイトルが付けられているだけに一風変わった、だが心に訴える記録映画だった。

 亡くなった年の夏までの間にすべて収録されたフィルムであるが、「知の巨人」と呼ばれる知性とぶれない信念、論理的な整合性を持って反戦、恩師、戦死した友人の思い出等について、東大本郷、駒場、信濃追分で淡々と、しかし信念と愛情を込めて真摯に話された加藤先生のお人柄とそれまでの活動を紹介する意欲的な試みである。学生時代と大東亜戦争、平和運動の話に終始して、意外にも外国生活の長かった先生にしては海外の話が少なかった。確か先生は1968年の「プラハの春」の際、車を運転してチェコへ入国し、その当時の緊迫した空気を体で感じ取った筈である。出来れば「プラハの春」について一言でも良いから話してほしかった。

 映画を通して先生の言葉の中に、絶対戦争はやってはならないという強い意思を感じた。何のために戦争をやるのか、まったく無意味であると強調されていた。「九条の会」の世話人を務めながら、長い間平和運動に関わり、その生き方や考え方はぶれることなく終始一貫していた。それが、多くの人びとの心を捉えたのだと思う。

 2007年夏亡くなった小田実さんの葬儀の折お姿をお見かけしたが、その時小田さんへの弔辞で「あなたはべ平連を始めとして、いつでも仕掛け人として先頭に立った」と小田さんの行動力を高く評価したことが印象に残っている。

 この映画は大手映画会社ではなく、「加藤周一映画製作実行委員会」が自主的に製作したものである。恐らくプロデューサー、監督ともに加藤先生の生き方と考え方に心酔して採算を度外視して作られたものだと思う。座席も100席程度の小さな映画館で1日に4回の上映では、果たしてペイできるのか気になるところである。こういう地味で良心的な映画をもっと多くの人、特に映画の中で加藤先生が「老人と結託すべきだ」と煽っていた若者に観てもらいたいものである。

2010年3月8日 | カテゴリー : 未分類 | 投稿者 : mr-kondoh.com