いやぁ、今日は素晴らしい話を沢山伺った。話されたのは、外務省外交文書密約事件で38年間に亘り日本政府を相手に戦ってきた、元毎日新聞記者・西山太吉氏である。裁判自体はすでに今年4月東京地裁から勝訴の判決を得て、改めて多くの人が知るところとなったが、国としてのメンツだろうか、負け戦を覚悟で国が控訴したのでまだ完全決着とはなっていない。しかし、本件に関する限りこれまでの経緯と証拠、関係者の証言により判決を覆すのはほとんど不可能に近い。
朝日新聞社会部OB十日会が主催した「『ジャーナリズムのいま』を問う市民講座」第1回の講演者として話題の西山さんが、「沖縄密約の今日的な意味」と題して話された。場所は有楽町のラクチョウビル内の成城学園のクラブである。会としてもうひとり西山裁判の原告団のひとり、柴田鉄治・元朝日新聞記者が前段の話をされた。柴田氏がまだ海外特派員として活躍していたころ、海外便りをよく読んだものである。
今年79歳になられる西山さんは、血色も良くテーブルに拳を叩きながら熱弁を揮われた。不正を許せない熱血漢の面目躍如である。お2人とも異口同音に協調されたのは、国民が罪を犯せば法によって国に罰せられるが、国が罪を犯しても罰せられないのはおかしいと仰ったことである。国は国民にウソをついてはならないという戒めには、それをやると安保条約の変質とか、外交密約という問題につながると警告された。60年安保闘争に参加した立場から考えると、もう少し現在の安保について改めて勉強してみることが必要だと反省させられた。
印象的で眼から鱗のような話を随分された。西山さんが特に強調していたのは、「安保条約の中身は60年安保、70年安保、沖縄返還、2006年日米合意へと時間の経過とともにまるで変わってしまった」ということである。そして、55年体制以降、外務・防衛官僚によって日本の外交・防衛は進められ、大きな厚い壁が出来て、外部の力では風穴を開けることすら出来なくなっていると危機感を述べられた。今度の勝訴もやっとドリルで穴を開けた程度だという。話題の抑止力なんかとても当てに出来ない。
2006年日米合意の下に作成されたロードマップは、当時のラムズフェルド国防長官と守屋武昌・防衛事務次官の間で調整のうえ作られて磐石に固められており、そう簡単に作り直したり、破棄することは出来ない。今度の普天間基地移設の原案回帰もこのロードマップに沿っている。
新たに認識させられたのは、鳩山首相の祖父・一郎元首相とその後の石橋湛山・元首相は、ともに党人派であり、真剣にアメリカに対して日本のあるべき立場を主張し、政治理念を行動に移した。アメリカが危惧する中で、鳩山一郎は日ソ国交回復を果たし、石橋湛山は日中国交回復を目指した。アメリカに言うべきことも主張した。サンフランシスコ平和条約締結後は、沖縄の施政権を返還して6年後に米陸軍の撤退を、さらに6年後に空・海軍も日本からの撤退を要求していた。
残念ながら石橋は健康上の理由で僅か3ヶ月の短命内閣に終わり、実績は残せなかったが、長く首相の座に居たら、その後の日本は大分変わっただろう。
しかし、その後を継いだ岸信介以降の首相は官僚であり、自分たちの領域と権益を頑として守り、安保条約を法制化して固定化した。党人派なら自主独立、中立、反戦、反核、反基地を貫き自主外交路線を歩むのに対して異なる保守の道を歩んだであろう。官僚が法制化して固定化した安保には、まやかしが多く、事前協議には核配置、旅団配備、直接行動などが盛られているが、実際その通り協議出来る保証はない。沖縄返還に当たって「核抜き・本土並み」を標榜したが、実際にはアメリカの要望をすべて飲んでいる。非核3原則にしても、「3」原則ではなく、「2.5」原則で、陸上はともかく日本の軍港に核は持ち込まれている。
他に大きな問題として沖縄に駐留する米軍にかかる経費はすべて日本が負担している。今や在日米軍の経費の75%は日本が負担している。また、世界に点在する在外米軍の駐留費用の50%は日本が負担している。世界で呆れられているこういう事実を外務・防衛官僚は一切国民に知らせようとしない。
今回の辺野古移設案は、2006年の日米合意のロードマップに基づいていて、アメリカはロードマップに戻って来るのは当然との受け止め方であった。民主党政権発足時に「CHANGE」の精神で、真剣に検討し、精査してアメリカと激論を交わして変更させる気持ちがなくては、この堂々巡りも致し方ないのか。
政治を監視するのは、マス・メディアだと言っておられた。若いジャーナリストの間には、優秀な人も大勢いる。むしろ彼らを殺してしまうのは、上に立つ人が問題だと言っておられたが、何もこれはメディアに限ったことではない。
ほかにも参考になる有益な話を沢山お話いただいた。数は少ないが、世間にはこういう気骨のある立派な人もいる。
とにかく今日1日は有意義な話を聞くことができて、充実した気持ちでいっぱいである。西山さんに感謝!感謝! 併せて真面目でタイムリーな企画を計画された主催者の労に対しても感謝の気持ちである。