束の間軽井沢へ出かけている間に国内外で政治的、外交的に大きな動きがあった。政治的には国内で菅第2次改造内閣が発足したことである。外交的には大きな問題となりつつある中国漁船の尖閣諸島領海侵入事件である。後者は予断を許さない外交問題に発展する様相を帯びてきた。
昨日は柳条湖事件発生により満州事変が勃発して79年目という節目の日に当たり、中国各地で反日デモが勃発した。しかし、反日デモの拡大を警戒する中国当局の抑制的な警備によって大事には至らなかった。
そもそもこの問題の根底には、領土問題が横たわっている。日本、中国がともに尖閣諸島(中国名・釣魚島)の領有権を主張し、そこへ近年になって台湾まで領有権を主張するようになった。中国が領有権を主張し始めたのは、その海域周辺で海底ガス田の存在が調査結果で明らかになってからで、ほんの数年前のことである。わが国が尖閣諸島を日本領土であると国際社会へ向けて宣言したのは1895年で、爾来そのまま推移してきた。当然わが国は領有権を主張出来る権利がある。中国の領有権には正当の権利がないと思う。それがこのようにこじれてきたのは、両国間でじっくり話し合いをしてこなかったことと、中国の海洋資源簒奪を目論む拡張主義と、自国の利のためなら他国を粉砕しても良しとする「愛国無罪」主義がある。「愛国無罪」とは、国家のための行為は何事にもまして許されるというもので、今回はそれほど露骨でもないが、5年前の反日デモの際日本領事館や日本商店を暴徒が襲っても、そのまま野放図に放置されたまま罪に問われなかった事実がある。
漸くテーブルに着こうとしていたガス田掘削交渉を一方的に延期したり、掘削作業用の機材を了解事項に反して秘かに搬入したり、要人の来日を突如中止したり、遂には民間ベースである企業の社員1万人優待旅行をキャンセルしたり、日本への報復行為はエスカレートするばかりである。これまで中国側のやり方は日本へ圧力を加えれば、日本は退くとの強硬論至上主義があった。わが国は中国にいつも舐められていたのである。ここは毅然として、筋を通して主張すべきは主張するという強いスタンスを取ることが大切である。
ここ数日中国国内、或いはニューヨークの日本領事館前では反日デモが繰り返されている。
しかし、これまでの中国政府の対応はあまり大騒ぎをされても困るとの姿勢に終始している。政府サイドが一部の反日分子の意向を汲んで反日ポーズを煽っていながら、一方ではあまり行動が過敏になっては迷惑との臆病なスタンスが窺える。ここには、中国国内へ向けた国民懐柔のための苦肉の策が弄されているのである。国民の声を無視しては国内問題として政府批判につながりかねず、国内に公務員汚職や貧富格差のような深刻な問題を抱える政府としては、問題の拡大化を懸念して国民と歩調を合わせながら国際問題に対応しているジェスチャーを示しているに過ぎない。この辺りにも中国人特有の「傲慢」と「臆病」が垣間見られる。
それにしても民間外交とも言うべき観光旅行にまでブレーキをかけさせるというのは、あまりにも神経過敏で些か異常であり、どういう意図や真意があるのか見当もつかない。
アメリカ政府は表面的に日中両国間の問題と冷静な対応を求めているが、内心中国が近年軍事力を突出して増加させていることを憂慮している。
この騒ぎの最中に中国にとっても経済的に大きな課題がクローズアップされてきた。
ひとつは、国際通貨基金(IMF)が中国の出資比率を大幅に増額させることを要求し、これは実現の見通しである。中国は現在世界第2位のGDP達成を目前にしながら、未だに新興国の立場を取り続け、IMFへの出資比率は3.9%で、これを日本の6.5%並に引き上げようというものである。
もうひとつは、アメリカのガイトナー財務長官が懸念を示した中国の人民元引き上げ問題である。今年始めから中国人民元の水準の低いことが指摘され、切り上げに踏み切ることを世界は求めていたが、中国政府は敢えて強い為替相場への介入はしなかった。だが、アメリカ政府にとっては経済不況から失業者が増大し、安い中国人民元がアメリカ経済の立ち直りを邪魔しているとの観測が強く、今後も国を挙げて中国為替政策への圧力を強めてくるだろう。早晩中国が何らかの対抗措置を講じざるを得ないことになろう。
いずれにしても中国の強い存在感と恫喝的な威圧感は日本にとってもかなりのものである。内閣改造により前原誠司氏が新たに外相となった。中国は新外相をタカ派と見て警戒しているようだが、あくまで対等に筋を通す姿勢を貫き、堂々と日本の考えを主張して欲しいものである。そのひとつとして、いつまでも互恵原則を形式的に唱えるだけではなく、尖閣諸島の領有権については、正々堂々と国際司法裁判所に審判を下してもらうことを現実的な解決策として考えてみてはどうであろうか。