1255.2010年10月20日(水) 死刑制度は存続か、廃止か。

 駒沢大学の講座で清田義昭講師が前回に続き、死刑制度は是か非かをテーマに講義された。今日は連続殺人犯として昭和47年に4件の連続殺人事件を犯した永山則夫の経歴と獄中で移り変わる胸中を紹介したNHK・ETV特集ビデオ「死刑囚・永山則夫―獄中28年間の対話」を観せてくれた。数々の賞を獲得した骨太いドキュメントである。

 あまりにも残虐な凶悪犯罪は、当時世間を恐怖のどん底に陥れた。都内のホテルを皮切りに、京都、函館、名古屋と短期間に広い地域で犯した凶悪殺人事件は日本中を驚かせたが、まもなく逮捕された犯人の実像を見て再び衝撃を受けた。何とその時犯人永山則夫は、19歳の未成年だったのである。通勤途上山手線沿線に見える犯人逮捕の現場周辺を通るたびに、事件を思い出させられたものである。

 今日のドキュメントでは、逮捕された永山は幼児期、成長過程を通して極貧生活の中で親からも見捨てられ、どこにも居場所がなかった。犯罪の原点はこの貧困にあったと思われる。第1審死刑、第2審で無期懲役、そして最高裁で逆転死刑が確定し、1997年8月刑が執行され48年の生涯を閉じた。

 この間一時永山は、オランダの社会学者の書を引用して、罪を犯した真の原因は貧困に苛まれた社会にあると獄中から訴え続けた。獄中で文字を覚え、読書に耽溺した。マルクスやドストイェフスキーの作品も読み漁った。支援者も現れ、中でもアメリカ在住の女性と文通を通して親しくなり、彼女と獄中結婚をして作家活動をスタートさせ獄中出版までして、「無知の涙」「木橋」はベストセラーにまでなった。印税を被害者へ贈呈することを申し出て一部の貧しい被害者はそれを受け取った。

 結局紆余曲折の末、死刑確定の直後ただひとり自分を心から理解してくれた夫人とも離婚した。逆転判決の際「永山基準」と言われた判決に際して、永山事件から得たヒントを判断の参考にするため分析する法律的基準を作成させた。

 深く考えさせられたビデオである。先週清田講師は個人的な考えと断ったうえで、死刑制度には反対と仰った。昨年5月に裁判員制度が導入されて以来、一般市民が裁判に参加するケースが増えてきた。しかし、これまで死刑が予測されるケースはなかった。ところがまもなくある事件が持ち上がってくる。その殺人犯は罪のない女性を2人も殺害している。ひょっとすると死刑判決が出る可能性がある。それらを意識したうえで、清田講師は議論の材料として問題を提起された。

 しかし、あまり討論する時間がなく、踏み込んだ議論にはならなかった。講座終了後、清田講師に判断の基準として、ひとつの考えを直接尋ねてみた。複数以上の殺人を犯した極悪非道な犯人に、死刑でなく終身刑を課した場合、この犯人を一生収監しておくために係る経費は、税金で賄うことになる。住居費、食費、医療費などを終生手当てするのは、国民としての義務を果たし、真面目に働きながらも貧しい生活を余儀なくされている人々に比べて不公平ではないかという点である。清田講師も即答せず、難しい問題だと仰っていた。

 人間が人間を裁くことがいかに難しいか。そう簡単には結論は出ない。

2010年10月20日 | カテゴリー : 未分類 | 投稿者 : mr-kondoh.com