1262.2010年10月27日(水) 袴田事件裁判の真実と難しさ

 寒い!と思ったら東京では早くも木枯らし一番の襲来である。札幌では雪上車も見られた。今年は夏が異常に暑く、過去の猛暑記録も破ったほどの炎暑なのに、冬は冬なりに例年異常の厳しい寒さが訪れそうである。

 毎週水曜日の駒沢大学の講座では、このところ裁判制度を巡る講義が多く、今日も清田義昭講師から重い内容のテレビ・ドキュメントを見せてもらい、これまで格別関心を抱かなかった、最近とりわけ脚光を浴びている裁判制度のあり方について考えさせられた。

 今日は静岡朝日放送が制作した30分番組「悔恨―袴田事件を裁いた人」を観賞した。死刑囚・袴田巌の静岡地裁の第一審公判で裁判官を務めた、熊本典道氏の反省と謝罪、悩みを熊本氏の口を通して事件の全体像を語らせ、冤罪の可能性と危険性に迫ったドキュメントである。

 偶々今朝テレビを観ていて「判検交流」という言葉を知った。検察庁から裁判所へ一定期間派遣され、本来なら検察官役を務めるべきところを出向中は裁判官として中立の立場に立って判決を下す。しばらくしてこの裁判官が本籍の検察庁へ戻るケースに触れていたが、件の裁判官はどうしても検察寄りの判断を下すことは考えられるとの話だった。事実とすれば、この「判検交流」には裁判の本質とは相容れない視点が入る危険性があり、現行の裁判制度の中で大きな弊害となり、当然是正されなければならない。なぜこんな恣意的な人事異動がこっそり行われ、世間から糾弾されないのだろうか。

 ところが、今日のビデオでは、裁判所法に基づいた「評議の秘密」なる言葉があるということも知った。裁判に関する内容を外部に漏らしてはならないという法である。これが壁となって、熊本元裁判官は自らの考えや裁判記録を長らく外部に発表することはなかった。だが、事件から40年が経過し、ともに判決を下した先輩の2人の裁判官も亡くなられた。第1審当時若かった熊本氏は袴田無罪を主張したが、最終的に他の2人の裁判官が主張する有罪説を、自らが信ずる無罪説へと説得出来ず、押し切られたことを今も悔やみ慙愧に堪えないと言っている。ビデオは、これまで熊本氏の負い目となっていた真相の秘匿を白日の下に曝け出し、袴田巌は犯人ではなく、彼を冤罪から救う運動を支援している姿を追ったものである。

 しかし、いま問題なのは、自ら関わり事実関係を最もよく知る元裁判官・熊本氏が袴田は犯人ではないと、証拠品についてもいくつかの疑問を述べても結論が変わらないことである。熊本氏が間違った判決を下したことを後悔し、人間として袴田の前で手をついて詫びたいと述べていたことに、袴田無罪説を信じる人も結構多いのではないか。だが、袴田はこのままだと冤罪で刑場に送られることになる。死刑制度、誤審、冤罪、裁判員制度等々、まだまだ難しい問題が多い。

2010年10月27日 | カテゴリー : 未分類 | 投稿者 : mr-kondoh.com