1277.2010年11月11日(木) 海上保安官のビデオ流出行為をどう考えるか。

 尖閣諸島沖の中国漁船衝突をめぐるビデオ流出事件で、流出させたと名乗り出た海上保安官は、警視庁と東京地検の事情聴取に対して動画サイト‘You Tube’へ投稿したことを認めた。この行為自体は決して許されることではないが、世論は意外に冷静でよくぞやってくれたと賛同する声もある。この海上保安官は国家公務員法により職務上知ることの出来た秘密を守る守秘義務違反に問われる可能性がある。しかし、ビデオ自体が国家の機密であるかどうかの議論もあり、ある識者は国民が知るべき事実で、秘密にはあたらないとの見解を述べている。

 作家佐野真一氏も中国人船長を釈放する一方で、ビデオを流出させた海上保安官を逮捕するのは妥当とは思えないとも言っている。

 本件のケースでは、国家公務員法の秘密とされるためには、公にされていないことと、実質的な秘密として保護に値することがクリアされなければならない。

 この海上保安官が勤務している神戸海上保安部では、誰もがビデオを観ることが出来たといい、職務上知りえたとも言えないという空気もあるようだ。現場の冷静ぶりに引き比べて、国会の先生方の浮き足立った言動が滑稽に見える。国家機密漏洩の責任は誰が取るのかとか、今になって早くビデオ公開に踏み切らなかったからこの騒ぎになったとか、足の引っ張りあいばかりやっている。

 それにしても昨晩のニュース‘ZERO’で、この保安官に個人的に接触し、取材した読売記者が堂々と彼にインタビューした時の様子をしゃべっていた。これだけ大騒ぎして当事者の名前も、顔写真も報道されていない中で、この記者はインタビューの概要についてぺらぺら話している。何だか奇妙な感じである。

 そんな中で、この保安官が情報流出に‘You Tube’という新しいメディアを選んだ事実に注目し、今後のためにも情報公開のあり方と情報公開はどうあるべきか、国民の間で議論を深めるべきだと指摘したジャーナリズム論専攻の林香里・東大大学院教授の提言が目を惹いた。検討に充分値すると思う。

 林教授は、「既存メディアはプロフェッショナルとして公共の利益を自ら判断し、情報を人々に伝える。だからこそ報道の自由など『特権』が認められてきたし、情報を提供した公務員が守秘義務違反に問われるのもまれだった。今守秘義務違反で国家公務員が刑事責任を問われようとしているのは、メディア環境の変化の中で起きたことだ。ネット空間では、だれもが情報の送り手となり、有益な情報もマイナスの情報もあふれている。そこにどんなルールを作っていくのか。ビデオの非公開という政府の判断の是非も含め、民主主義の土台となる公的機関の情報公開はどうあるべきか。議論を深めていくべきだ」と述べている。

2010年11月11日 | カテゴリー : 未分類 | 投稿者 : mr-kondoh.com