1282.2010年11月16日(火) 事業仕分けは国の政策と矛盾している。

 昨年政府の事業仕分けが注目され、大方の喝采を浴びた。これは私も所属する政策シンクタンク「構想日本」の提言を受けて初めて実行されたもので、国の事業内容の効率性と無駄をびしびし査定して、その必要性に断を下したものである。

 それが、どうも言いっぱなしになり、中には看板の付け替えをすることでしぶとく生き残る事業もあって、実際には喝采を浴びた仕分けの成果にも疑問が呈された。そして、昨日事業仕分け第3弾後半戦が始まり、過去の仕分け結果が予算要求に充分反映していない事業を対象としてチェックが為された。

 仕分けでは対象となった28事業の内、9事業が廃止、6事業が予算圧縮、6事業が見直しとされた。その中で国の重要政策とされた観光が、オヨヨと思わせる国家の政策に逆らうような判断が下されたことには唖然とさせられた。

 観光関係の3事業の内、「観光地域づくりプラットフォーム支援事業」が予算要求を半減され、これからの観光業の目玉とされている「訪日旅行促進事業(VISIT JAPAN事業)」は予算要求の1/3を圧縮され、今後期待される「国際会議の開催・誘致の推進」は、何と予算計上が見送りとされた。

 観光は菅政権の成長戦略の主要な柱ではなかったのか。

 観光については、言うまでもなく近年国は経済再生の柱のひとつとして力を入れていくことを強く意識して、観光立国懇談会を発足させ、観光立国推進基本法を制定し、更に観光立国推進基本計画も策定して、着々と環境整備を行い、実効も上がっていた。更にその執行機関として一昨年には国土交通省は、外局として「観光庁」まで発足させ、わが国の遅れた観光行政を推進するための目標と枠組みは漸く緒に就いたばかりである。

 近著「そこが知りたい 観光・都市・環境」の中でもこれらの政策を評価し、近未来の観光振興に大きな期待を抱いていたことを記述したばかりである。しかも、観光の振興はこれまで国の強い支援策もなくほとんど民間の手によって行われてきた。事業仕分けチームは、国家予算を削減すると強圧的な文言を弄して、観光庁予算が倍増している(21年度62.5億円→22年度126.5億円)と言いがかりをつけているが、厚労省の22年度一般会計予算27兆円と比べれば分るようにごく些少であり、観光は雇用創出を含めて経済的にも成果が上がることは明らかである。

 それより何より、昨日まで観光は日本経済の切り札だの、21世紀は観光の時代だのと散々観光業界を踊らせておいて、その挙句にポイ捨てとは、やはり腹の中では観光産業は蔑視されているのだと改めて認識した。

  NHK「ニュース7」で、民主党が決めた政府予算を同じ民主党議員が事業仕分けで、廃止を決めるのはおかしいと民主党内から批判的な意見が出てきたと伝えていた。出足は良かったが、このところ事業仕分けに対する全面的支持という風向きが、少しずつ変わりつつあるようだ。

 それにしても納得がいかないのは、仕分け人と質問に対する説明者が観光の実態と本質についてまったく分かっていないことである。そういう人たちが過剰なパフォーマンスで演技している。これでは残念ながら日本の観光産業はいつまで経っても日の目を見ることはないのではないか。

 ところで先般オープンしたいま話題の羽田空港国際線ターミナルビルを見学がてらランチをいただきに妻と出かけた。まあ物見高い見学客を含めてロビー周辺と土産物店、レストラン街は芋を洗うような人混みだった。昨年12月に新管制塔見学で訪れた時とはまったく変わった熱気が充満していて、新しい観光ブームが元気づけてくれるような気がした。

 そんなムードに引き比べ、何と事業仕分けはがっかりさせてくれることだろうか。残念ながら政治家には肌で感じる観光の臨場感は分かるまい。

2010年11月16日 | カテゴリー : 未分類 | 投稿者 : mr-kondoh.com