1481.2011年6月5日(日) 文化遺産はどこの国に帰属すべきか。

 今朝の朝日日曜版「GLOBE」に興味深い特集記事が掲載された。「文化財は誰のものか」と題する中々面白い記事だ。ペルーのマチュピチュ遺跡から掘り出された出土品が保管されていたアメリカのエール大学から、今年3月100年 ぶりに母国ペルーへ帰還した。遺物を収めた木箱を乗せた車列がパトカーに伴走されてリマ空港から大統領府に到着し、礼砲の鳴り響く中でガルシア大統領がペ ルーの尊厳と誇りを象徴しているとその帰還を心から歓迎する言葉で迎えた。些か大げさと思えるほどペルー国民にとっては待ち望んだ「国家の宝物」の帰還 だった。
 マチュピチュと言えば、今や世界的な観光地として世界に911箇所しか登録されていない「世界遺産」の中でも、最も人気の高い観光地である。
 そのマチュピチュの遺物が祖国へ帰ってきたのだから、ペルー国民としては大きな喜びであり、お祭騒ぎする心情もよく分る。それにしてもよくも所有者であるエール大学が思い切って返還を決断したものである。3月に帰ってきた出土品はまだごく一部で、僅か363点だが、今後エール大学は保管する遺物46332点をすべて返還するという。
 ご多聞に漏れず植民地時代に朝鮮半島から日本へ持ち運ばれた韓国の陶磁器などの名品についても書かれている。国同士の話し合いでは返還することで足並みは揃っているが、個人の収集品となって秘かに保存されているものについては全体の掌握すら難しいという。

  今や国家の財産となってその国の国民が愛する資産として世界中から見学に来るような価値となった遺物は「私たち の財産ですから返して下さい」との要請に対して、ただ単純に「はい承知致しました」というわけにはいかないのではないか。その中でエール大学のように個人 的所有物と判断した大学当局が、独自に返還することを決めた英断には拍手を送りたい。
  そもそも他国から持ち出した価値ある遺物に対して、現在の所有者側は「美術館はひとつの国の市民のためでなく、すべての国民に奉仕しなくてはならない」と 述べ、人類共通の財産を保有するという彼らなりの正当性を主張している。これに対して持ち出された国側は文化遺産はもともとあった国に所属するべきものと の原則の下で、各国が共闘して保有国に圧力をかけていくスタンスである。
  征服者には被制服国のピラミッド、万里の長城、コロッセオのような持ち出し不可能な文化遺産ならともかく、欲しいと思えば分割してでも持ち出そうとする野 心が強く、ほとんどが力に任せて奪い取ったものである。これが奪われた国々にとっては植民地時代の悪しき圧制の記憶として、許し難いのだ。
  実際大英博物館やメトロポリタン美術館で出会う旧植民地から持ち出した宝物には、奪われた国民の複雑な気持が何となく感じられるような気がする。それはア テネ・アクロポリスのパルテノン神殿の石彫り壁画を大英博物館に持ち去られ、イミテーションをパルテノン神殿に見た時感じる気分と同じようなものである。
 外国から持ち込んだ文化遺産を数多く所有している先進国の思惑が絡んで、現時点では国際的な取り決めは特になく、遺物の所有権に関する話し合いは当事国同士の交渉に委ねられている点が、今後の解決にとってネックになるような気がする。

2011年6月5日 | カテゴリー : 未分類 | 投稿者 : mr-kondoh.com