1496.2011年6月20日(月) 明治29年発行の「風俗画報」を読む。

 先日吉村昭著「三陸海岸大津波」を読んで、明治29年、昭和8年の大津波が東日本大震災に酷似していることに思わず唸った。吉村はすでに亡くなったが、今回の大震災に合せて増刷再刊された同書の印税を妻の津村節子さんは被災地に寄付するという。政治家にはまったく考えられない発想だ。
 吉村は過去の大津波に強い関心を抱いて、三陸津波被害地を毎年歩いていたという。記録文学としても秀逸な作品である。私が関心を抱いたのは、作品に引用されている明治29年当時の挿絵である。写真がなかった当時の臨場感溢れる現場がありありと再現されている。吉村は2つの大津波を調べるために、各地の資料館や図書館を訪れ、当時の小学生の作文を大分参考にしたようだ。素晴らしい挿絵は、明治29年に東陽堂から発行された「風俗画報」から引用している。
 ありがたいことにその「風俗画報」の昭和48年復刻版がわが書庫にある。読書好きだった義父がセットで買い求めた遺品である。この明治三陸大津波については、半月刊で明治29年7月10日、25日、8月10日の3回発行された。それぞれB6判・40頁で旧仮名遣いで印刷もそれほど明瞭でないので、中々読み通すのは大変だが、吉村先生にあやかってじっくり読んでみたい。内容も一読して中々興味深いが、7月10日号の裏表紙に予告文が書いてあり面白いので、ここに掲載してみる。
 「予告 海嘯被害録中巻  海嘯被害の報の達するや弊堂はいちはやく視察員を被害地に派遣して記事に絵画に其実況を模写し来りしが茲に 風俗画報を臨時増刊して海嘯被害録と題し之を世に公にするを得たり然れども被害の区画たるや莫大なるを以って一朝一夕に正確なる記録を編纂すべくもあらず 故に該海嘯被害録は巻を上中下の三に分ち以て弊堂が世上の読者に被害の実況を報道するの義務を終んと欲す尚中巻には有名なる理学博士巨智部忠承君が記述せ られたる地震津浪に附き地質学上の考説並に全世界中最大最深の海底なるトスカロラ海床の略図をも掲載すべければ上巻を繙き玉ふ者は并せて中巻下巻をも購読 あらむことを乞ふ」
 句読点もスペースもない。読みにくいが大体意味は分る。明治29年ごろのインテリ層はこんな文章をすらすら読んでいたのだろう。

2011年6月20日 | カテゴリー : 未分類 | 投稿者 : mr-kondoh.com