1512.2011年7月6日(水) 深刻で考えさせるテレビ番組二つ

 3日前の夜NHK・ETV特集で「大江健三郎・大石又七-核をめぐる対話」という1時間半に亘る中々密度の濃いトーク番組が放映された。偶々昨日駒沢大学の講座で片山正彦講師が、この番組のあらすじについて解説された。
 大江氏は言うまでもなくノーベル賞作家で誰もが知る著名人であるが、一方の大石氏については一部で知っている人を除いてあまり著名な方ではない。1954年にビキニ環礁で死の灰を浴びた第五福竜丸の元乗組員である。二人は初対面であるが、大江氏がすでに大石氏の著作「死の灰を背負って」を読んだうえで第五福竜丸展示館内の船の上で話し合った。
 二人は今度の福島原発事故はこれまでの大国の原水爆実験、及び国際的な原子力開発競争の延長線上で起きた事故であると言われる。80歳に近い二人が話されるので、やや会話の歯切れが悪く聞き取りにくかったが、その中にはいくつか感銘を受ける言葉があった。
 大江氏は子どもの頃に大人の話す言葉について母親に度々質問して、感銘を受ける言葉とは真面目な言葉で悲しみの伴った言葉であると学んだという。一方、大石氏は23名の乗組員のうち亡くなった14名 はほとんど白血病と甲状性癌によるもので、事件以来放射能に怯え、地元・焼津の人たちの謂れなき噂話や中傷に追われるように上京した。自分たちは死の灰に よって苦しめられたのに、事件がどんどん忘れ去られていくことに無性に腹が立ったと言い、それが自分に書を書かせた動機であり、世の無関心に警鐘を鳴らす きっかけになったという。 
 その当時ソ連の水爆実験により原子力が兵器開発に向けられるのを恐れた、アメリカのアイゼンハワー大統領がビキニ水爆実験の前年、1953年 に原子力平和利用を訴えるステートメントを発表した。その翌年のビキニ環礁水爆実験に反対する国際世論の高まり、とりわけ被害者である日本国内の強力な反 原子力運動を抑えるために日米両政府が原子力平和利用について取引して協定を結び、それ以降反原子力の声は小さくなった。この舞台裏を当時のフィルムを交 えて説明してくれた。
  国内では政府と実業界の間に原子力政策を推進する協調路線が確立され、当時の読売新聞社主・正力松太郎氏が自民党・中曽根康弘氏とともに政界、及び経済 界、文部科学行政において原子力推進の仕掛けをした。それ以来わが国の原子力政策は原発推進を中心に据えて止まるところを知らず、今日のエネルギー政策に 至っている。この福島原発事故を導く結果となった、わが国の原子力政策を推進した人たちは誰も責任を取らないだろう。それは太平洋戦争を引き起こした罪に 対して、誰も責任を取っていないのと同じ図式である。
 この間ビキニ環礁周辺では66回もの核実験が行われ、多くの放射能被災者が生まれ、今日では実験こそ中止されたが、未だに後遺症は残っている。大石氏は2004年このビキニ環礁内にあるロングラップ島へも出かけ、被害を受けたジョン・アンジャイン元村長を始め島民とも交流を深めているが、ここにも放射能の影響は残り、彼らは島から移送され別の島で暮らしている。
 幸い大石氏は紹介者がいて結婚することは出来たが、生まれた子どもは死産だった。死の灰の影響を受けたことをいつまでも気にして心は休まらない。都内に開店していたクリーニング屋も寄る年波で昨年閉店した。前向き志向の方ではあるが、20歳以降死の灰の恐怖に取り付かれ、一日たりとも死の恐怖を忘れたことはなかったという。
 こういう貴重なフィルムは、原子力推進派にも見せて、自分の問題として考えることをもっとPRしたら良いのではないかと考えた次第である。
 今日の駒沢大学の講義では、清田義昭講師が裁判員制度について問題提起をした。昨年放映のビデオを観賞して考えることになった。
 「『死刑裁判』の現場」と題する気の重くなるビデオである。元東京高検検事で弁護士の日大教授・土本武司氏が、 検事時代にただ一度だけ求刑した死刑により処刑された犯人との生前の交流を描いたドキュメント作品である。裁判で自分が極刑を求刑し、死刑が確定していな がら犯人の人間性と母親の息子への愛に、少しずつ極刑を求めた気持ちに迷いが生じ心が揺らいでいく。手紙を交換する過程で次第に減刑を求める気持ちが強く なり上司に「個別恩赦」の相談をする。まったく矛盾した気持ちを上司に突かれ、その気持ちを絶つ。鬼になりきれなかった自分を情けないと嘆いて、今でも心 に引っかかるのを何とも仕様が無いと言い、死刑制度はない方がよいとも言う。
 しかし、清田講師が個人的に知人から聞いたところでは、土本氏は必ずしも死刑制度廃止論者ではないという。だから分らない。人間の生死がかかっているだけに、簡単には結論は出そうもない。見終わって考えさせられもし、また気が重くなったドキュメントである。

2011年7月6日 | カテゴリー : 未分類 | 投稿者 : mr-kondoh.com