運転停止中の原発の安全定期検査終了後の運転再開について、政府と地元との間で相手に対する不信感から大きな溝が出来てしまった。原発推進派にせよ容認派にせよ、現時点では運転再開について直ちに‘YES’とは応えられない不信感が芽生えてしまったのである。福島原発では作業員が放射能汚染を心配しながら懸命の作業を続けているにも拘わらず、収束へ向けた明るい見通しが一向に示されない。
テレビ番組でもしきりに原発是非討論をやっているが、素人にとって難しい説明をしたうえでいくつか示される専門家の資料がまた殊更分かりにくい。今気に なっている問題で、早く話を進めて欲しいと願うのは、わが国が将来のエネルギー政策で原子力発電を必要とするのか、不要なのか、不要とする場合の代替エネ ルギー源を何に求めるのかという、最も基本的で重要な課題である。それに、あまり議論されていないが、現在貯蔵されている分を含めて放射性廃棄物、使用済 み核燃料の処分を今後どうするのかという点をもっと真剣に議論すべきではないかと考えている。放射能漏れを引き起こす可能性のあるそれらの問題について、 ほとんど報じられていないのが実態である。
そんな中で8日午前0時にNHKが「世界のドキュメンタリー」番組の「放射能廃棄物はどこへ」シリーズで放映した2010年ドイツContex TV制作の「旧ソ連原子力潜水艦の末路」は、放射性廃棄物に対する無関心層に警鐘を鳴らす意味でも必見の作品だった。
米ソ冷戦時代に核兵器開発競争にしのぎを削っていたソ連は、開発製造した原子力潜水艦を保有すること自体が抑止力につながるとの考えの下に、200隻近い原潜を製造した。それが2000年 8月に起きた原潜「クルスク」の海底爆発事故以降、国の財政事情もあり原潜の存在価値が減じ、それらは無用の核廃棄物となり、ロシアはその処分に頭を痛め ている。そこで旧東ドイツ科学者の指導の下で放射能廃棄物を凍土に放棄する計画が実行された。その一時的な処分までの一部始終を追ったドキュメンタリー で、放射能の怖さと放射性廃棄物の処分の難しさをアピールしていた。
原潜200隻に搭載された原子炉をこれからどう処分するのか。重さ1基1600トンの原子炉7基をタグボートで雪深いサイダ湾保管施設へ曳航して運び、そこの野外に固定して監視するという。厳しい気象条件もあり、これだって1年にたった1回しか運搬出来ない。つまり1年に7基だけしかこの地へ運ぶことが出来ない。更にここに保管しても放射能漏洩の可能性がないわけではない。このまま置いたままでも放射能が消えるのに70年かかるという。
こういう危険な廃棄物の処分方法が国によってばらばらであり、これという決め手はない。こんな危ないものを造り出して、その処分法もはっきりせず、放射能漏洩の危険性は限りなく高い。この問題をこのままいつまでも放っておくわけにはいくまい。