2015年度の公的年金積立金の運用実績が、実に5兆円超のマイナスとなった。その最大の原因は、引き続く株式安が影響したわけだが、あまりにも巨大な額に驚いている。現在積立金を管理しているのはその名の通り、「年金積立金管理運用独立行政法人」(GPIF)という組織で、実にその積立金総額はざっと140兆円と言われている。資産のうち僅か1年間でその3.6%がなくなってしまったのである。我々年金暮らしにとっては現時点で直接被害を受けているわけではないが、将来を見据えると大きなショックである。もし、同じような状況が続くようだとこれから年金財政が苦しくなり、将来的に支給される年金が大幅に削減される恐れがある。
そもそも発端は、一昨年10月に将来の年金支払いに必要な利益を確保するとして、GPIFがその運用基準を見直したことにある。その際株式投資にあまり傾斜すると確実に確保すべき基金が減る恐れがあるとして相当な反対があった。実際それまでの国内債券の比率を60%から35%に下げ、一方で株式比率を従来の25%から50%に倍増したのである。ざっくり言えば、債券投資から株式投資に変えたのである。株式投資、運用に偏り過ぎであり、個人的には私もこの運用基準の変更には賛成できなかった。
これまでアベノミクスが効果を上げ年金積立金の運用益が増えたと自画自賛していた安倍首相は、3年間で37.8兆円の運用益が生まれたと豪語し得意の絶頂にあった。しかし、例年7月上旬に公表する運用成績を、なぜか今年に限って今月29日に先延ばしし、これを民進党は参院選挙後まで公表を先送りして損失隠しを企んでいると非難している。大事な国民の資産を国民に充分説明することなく、一部の専門家が決め、その挙句に損失を出しているのだ。一番理解できないのは、なぜ安全な債券投資から、リスキーな株式に鞍替えしたのかである。
ひとつ言えることは、これからも損失を生むことはあっても、関係者の中には誰ひとりとして責任を取る人間は出ないだろうということである。